今日はベンガルとの思い出を綴ろう。
ベンガルは高校の時、私に彼女を紹介してくれた友人だ。詳しくはこちらを参照されたい
中2の梅雨頃、登校してすぐに腹痛が酷くなり保健室に駆け込んだ
ベッドを借りて休ませて貰ったが、保健室の先生は30分経っても治りそうもないと思ったのか、すぐ近くの病院に行きなさいと命じた
私は言われるがまま病院に着くと医者の診察を受けた
医者「いつから痛いんだい?」
私「今日の朝からです」
医者「時々こんな風に痛くなることあるかい?」
私「小学生のときから時々」
医者はふーんというと私の右下腹部を手で押さえた。激痛が走った私は『痛ーいっ』と悶絶した
医者「盲腸だなー」
私「え?」
医者「ずいぶん酷そうだ、早いほうがいいか」
医者は親に連絡するように看護婦に言うと、私はあっという間に3階のベッドにつれてかれて手術着に着替えさせられた。男性用の空きベッドがなく、私は女性用のベットに寝かされた。その部屋は女生と言っても老人ばかりだったため、特に気にする患者はいなかったようだった
(※当時は看護婦と言った。最近は看護師)
看護婦「おウチ誰も電話出ないねー?いつもお留守?」
私「仕事だと思います」
困ったなーという表情をしたかと思うと、この20代前半らしき、愛らしい看護婦は恐ろしいことを私に告げた
看護婦「そうねー、連絡つかないけど午後すぐ手術になるからね」
私「えーー?」
当時はいい加減だよなーと思う。親に連絡ついてないし、保険証も持ってきてないのにイキナリ手術するとか、今ではありえないでしょう?
のちにお袋はスゲーおこったからね、この医者に詰め寄ってた、何してくれてんだと。だけど、この医者の見たては正しく、私の症状は一刻をあらそう状態だったと。開けてみたら盲腸はバクハツ寸前だったということだ
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私の腹痛は相変わらず治まらない。
隣の婆さん「どこがわるいんだい?」
私「盲腸らしいです」
隣の婆さん「そうかい、早く治るといいね」
まもなく、カチャカチャと金属音を鳴らしながら看護婦がトレーを押してきた
看護婦「じゃ、剃るからねー、ちょっと下ろすねー」
私「え?」
おもむろに私の手術着の前をはだけるとパンツを少し下にずらした。もちろん、ソレが見えない程度にずらしただけだが、とても恥ずかしかった
看護婦「ちょっと我慢してねー」
中2とはいえ、もうすでに下の毛はそれなりに生えそろっていた。悪友達とのエロ談義を思い出した。目の前で愛らしい看護婦が真剣な眼差しで毛を剃ってくれている
私はその妄想を『ヤメロ、ヤメロ』と封じ込めていた
看護婦「もうすぐ終わるからねー」
そのとき…、看護婦の手の甲が私のソレに少しあたったかと思うと、封じていた結界が解き放たれた…。私のソレは腹痛にも勝ったようだ
看護婦「あらあら、ごめんねー、ちょっとあたっちゃったかなー」
隣の婆さん「元気なトコあって良かったじゃないか、ガハハ…」
私はこの時、『ババア早く死んじゃえ』と思った…
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手術から2日くらい経った日の放課後、悪友達がお見舞いに来てくれた。そのなかにベンガルもいた。私はうるさくなると思い病室を出てみんなを屋上に誘った
ベンガル「松葉杖ってまだ必要なのか?」
私「まだ腹いてーからないとキツい」
みんなふーんと言った。私は体調を気遣ってくれたのかと思ったが、ヤツらは私がまだ腹が痛いことを確認しただけだった…
ベンガル「そういえばよ、Y尋ってテニス部の顧問やってるよな」
私「あぁ」
悪友A「あいつ女子のスコート下から覗いてるらしいぜ」
私「うっそー?」
ベンガル「マジって噂だぞ、下から見えるようにベンチに横になって指導してるってもっぱらだぞ」
私「…うぅ、ヤメロ腹いてーからヤメロ笑かすな」
悪友B「いやマジマジ、女子がよボール拾うときだけ、頭ピコッて下げるんだってよ」
私「テメェー…ふざけんなよっ、腹いてー、フカシこきにきてんじゃねーよ、何がピコだよ、わざとだろ!いてー」
ギャハハと一斉に笑いが起きたが、私の腹の痛みはもう限界に近かった。私はこの話を断ち切ろうと看護婦に毛を剃られた時の話を始めてしまった…
これは大失敗だった…
ベンガル「マジかよいいなー、もうその思い出だけでヌケるじゃんよー」
私「ヌケるかっ!…うぅ、ヤメロ腹いてーからヤメロ笑かすな、もういい帰れ」
すでに私の腹は限界突破の痛みだった。もうココに来ないでくれと懇願して帰って貰うのが精一杯だった
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私は一週間後に退院した
まだ激しい運動は出来ないが、放課後テニス部の様子を見に行った。
テニス部員のH野女子が話しかけた来た
H野女子「ねぇ、聞いた?Y尋の件」
私「えっ?何」
H野女子「1年の女子が騒いでんだよね、スコート覗くって」
私「マジだったのそれ?チラッとは聞いたけどさ」
H野女子「噂なんだけどさー、寝そべりながら指示だしてさー、ボール拾った女子が振り返ったらY尋と眼があったってー」
私「たまたまじゃなくてー?」
H野女子「でも3人くらい言ってきてるからさー」
私「そうなの?うーん、じゃさ部長と掛け合おうよ」
私は部長に秘策をだした。ボール拾いの女子はスコートじゃなくてジャージで良いこととする案だ。だいたいウェアは試合で着るのが本来だし、ボール拾いで汚れるのは良くないという理屈で通そうよと言った。部長もいいねといい、Y尋にみんなでかけあった
Y尋「ボール拾いでも試合に臨む気持ちでウェアは着るべきじゃないか?」
H野女子「でも、洗濯の回数が増えてヘタっていくし、家庭の事情でたくさんウェア買えない子もいるしで許してあげてください」
部長「練習で着るモノは少なくとも本人の自由にしてあげてください」
Y尋「…。…じゃ、スキにしろ」
こうしてジャージで球拾いをする女子が増えていき、ウェアの子はいなくなった。気がついてみると寝そべって指示を出すY尋の姿も同時に見かけなくなった…
H野女子「やっぱりそうだったってこと?」
私「たまたまだと信じたいなー」
H野女子「そういえばさ、ベンガルが入院中に看護婦といいことあったって言ってたけど何があったのー?」
私「ねぇよそんなの、あるわけねーだろ?あのヤロー、あることねぇこと吹き込みやがってぇー」
ベンガルはあちこちに入院中の話を吹き込んで歩いていた
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一週間も過ぎた頃、私は手術痕の抜糸に病院に行った。隣の婆さん、どうしてんのかなとちょっと覗いたがいない
私「あのー、婆さんて退院しちゃいました?」
看護婦「あぁ、あ隣にいたお婆さんね?お亡くなりになられたのよ」
私は少なからずショックを受けた。
つい一週間前まで軽口を叩いていたのに、あっという間に人って亡くなるんだと。私は『早く死んじゃえ』と思ったことを思い出し、胸の奥がずんと重くなるのを感じた
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それから数年後、高校は別々になったが彼女を紹介してもらった関係で、ベンガルとはよくダブルデートをしたものだ。伊豆の海に4人で出かけたり、渋谷や六本木のディスコに行ったり、映画も良く観に行ったものだ
ベンガル「スターウォーズも好きだけど、古いのもいいぜ。カサブランカとかスキだ」
私「おっ粋なの観るじゃん。あの台詞がいいんだよな」
ベンガル「あれな!」
私たちは同じ場面を思い描いていたが、彼女達は知らないようだった…。
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社会人になって数年が経ち、私のお嬢のキズが癒えかけたころだった。
(※お嬢とのエピソードはこちら)
私は仕事が夜勤ばかりだったし、土日とか関係ないシフト勤務だったこと、アパートに電話がなかったことから、しばらくベンガルとは疎遠だった
そのベンガルが突然アパートに彼女を連れてきて飲もうと言ってきた。居酒屋に着くといきなり、こう切り出した
ベンガル「俺ら、結婚することになった」
彼女「初めまして、よろしくお願いします」
いるとは聞いてはいたが、彼女とは始めて会った
彼女はキレイだった。今で言うとそうだな、乃木坂の斉藤飛鳥にちょっと似ていたと記憶している
私「こちらこそ、どうも。え?何、突然、ずいぶん急なんじゃないの?」
ベンガル「おぉ、急に決めた」
私「マジかよ、スゲーな!お祝いだな、今日は俺の奢りな」
ベンガ「ワリカンでいいよ、貧乏人!」
私「言い方!ね、こいつ口わるいでしょ?何かあったら俺に言ってね?」
彼女「クスッ…はい、慣れましたけど、そのときはよろしくです!」
ベンガ「こらこら、急速になつくんじゃなーい!」
私「いつでもおいでね!」
あー、もう同級生が結婚とかする年になったんだーと思った
あのことを聞くまでは…
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ここからはベンガルから聞いた話だ。概ねこうだったようだ…
彼女を自分の両親に紹介して『結婚する』と宣言するとベンガルの両親は喜んでくれた。次はいよいよ、彼女の両親に会って許してもらう番だ。
彼女は東京に出てきて働いていたが、彼女の両親は群馬県に住んでいた。群馬県まで許しをもらいにベンガルは出かけた
ベンガルが結婚を許して欲しいと願い出ると彼女の父はこういった
父「熱意はわかった。許しもしよう。…が、ひとつ条件がある」
ベンガル「どういったことでしょうか?」
父「我が家と同じ信者に君の家族もなってほしい」
ベンガル「え?信者?宗教ですか?僕だけじゃなくて家族全員ですか?」
父「そうだ、家族全員だ」
母「ご家族も入って頂かないと、この先両家の意見が異なると困るでしょう?安心して娘を嫁がせられないの。わかって頂戴」
ベンガル「え?それは…」
母「一度ご家族とよくご相談してみてほしいの」
ベンガル「わかりました、とにかく相談してみます」
帰り道、ベンガルは訊いたそうだ
ベンガル「なんで条件があるって教えてくれなかったの?」
彼女「ごめんなさい、口止めされてたの。直接言いたいからって」
ベンガル「…。」
帰宅後すぐにベンガルは両親に相談した
ベンガル「オヤジ、どう思う?」
オヤジ「じょうだんじゃねぇ、どこの世界に宗教、親にまで押しつけてくるバカがいるんだ。ふざけんじゃねぇ…断れ」
オフクロ「そうだよ、イヤだよ今更なんとか宗教なんて…。お天道様で充分なんだよ」
ベンガル姉「あの子の気持ちはどうなの?結婚しても自分だけ宗教やってりゃいいじゃん。それは別に反対しないよ」
ベンガル「ん…、そうだよな」
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ベンガルはそれから彼女を説得しようとがんばった…
ベンガル「ウチの親はとてもムリだな。俺だけ入信するんじゃダメなのか?結婚は俺たち二人の問題だろ?」
彼女「…でも、でもね、家族ぐるみのつきあいが出来ないなら、結婚式もあげさせないっていうの。勝手に式やるなら来ないって…」
ベンガル「そこまで言うか?それじゃ歩み寄りとかぜんぜんねーじゃんよ」
彼女「ごめんね…」
ベンガル「なぁ、俺、親と絶縁するからお前もそうしてくれないか?二人で結婚しよう」
彼女「…それは…」
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私「熱燗、二合追加でー」
ベンガル「…というわけでよー、破談になっちまったぜ…」
私「そっかー、彼女ついてくることは出来なかったかー」
ベンガル「物心ついたときから宗教やってて、教義信じてるから親を棄てて出てくるなんてありえないみたいだったな」
ベンガル「けど正直、嫌いになんかなれねーし、あいつのこと忘れらんねーし。もうどしたもんかね?」
私「俺もお嬢のことずっと引きづったもんなー」
私は燗をベンガルのおちょこに注いだ
私「忘れらんなかったらよ、思い出に生きろよ!」
そう言って自分の燗を飲み干した。ベンガルは私のおちょこに燗を注ぐとおちょこをチンとぶつけて言った
ベンガル「『お前とは本当の友情が生まれそうだ』っだろ?映画の見過ぎだろっ!」
私「ばれたか!」
ガハハと笑いあったその後は、映画批評に話が移った。
少しでも気が晴れればと、話題が尽きないようにと、深夜までそれは続いた…
(…第14話『用心棒?逃げ足だけはスコぶる早い』に続く)