新聞広告に釣られてホストでバイトをしようと思って面接に行ったら、大人のおもちゃを出されたときの話をしよう。これはお嬢がまだ結婚する前の20才頃、私が金欠で困っていたときの話だ
(※お嬢とのエピソードはこちら)
私はお嬢とのエピソードでも触れたが、この頃は常に金欠だった。月末近くになると食事代にも困るほどで、自分でご飯を炊いてカップラーメンに入れて飢えを凌いだことも多々あった
当時の私の毎月の収支はこんな感じだ
・収入:手取り12~13万円
・京浜蒲田のアパート代:2万6千円
・公共料金(電気ガス水道):5千円
・スーツ、靴、コートなどのローンの支払い:2万円
・食費:6万円(ほとんど外食)
なんだ、少し残るではないかと思われるかも知れないが、週に何度も会社での飲みの誘いや、お嬢を始め学生時代の友人からの飲みの誘いがあるなど、とにかく頻繁に飲みに行くため常に金欠だった
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そんな私にたかる会社の同期S井がいた
こいつの両親はゴルフ靴の製作を行う職人で休みが取れないほどの注文がきていて捌ききれないほどだという。このゴルフ靴は末端で6万円もしたという代物だ
時はバブルの足音がはっきりと聞こえ始めていた頃で、特にゴルフはすでにブームとなっていた。全国のゴルフ場の会員権は投機対象にもなっており、ゴルフ関連の業界は沸きに沸いていた
要するにS井は金持ちのぼんぼんであった
同期だからS井ともよく飲んだ。その際私は嫉妬に狂う事実を聞いた
S井「やっと説得できた、ソアラのツインカム・ターボ買って貰った」
私「マジか…」
それだけならいい。羨ましいが仕方がない親ガチャの話だ。しかし、こいつは事もあろうに休みの日に埼玉の蒲生からソアラを飛ばして私のアパートまできてこう言った
S井「腹減った…、財布に100円しかねぇ。何か喰わせろ」
私「はぁー?マジかお前…ソアラ乗ってて100円とかありえねぇ」
しょうがねぇなといって近所の定食屋でカツ丼を驕った覚えがある
また、あるとき会社で昼を喰った後、私の後を追いかけてきてこう言った
S井「タバコくれよ、1本でいい…、財布に100円しかねぇ」
私「100円あんだろ?ゴールデンバットでも吸えよ」
当時、ゴールデンバットは100円もしなかった
S井「ムリムリ、あれだけはムリ」
私「なんで俺より金ねんだよ、おっかしいだろ?」
こんとき、いつもS井は『でへへ』と笑ってごまかしていた
S井「いつもわりぃからさ、今度ウチ来いよご馳走すっからよ」
私「おーいいね、たまには返せよ」
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こうしてしばらく経ったある日、私とあと2人の同期でS井の蒲生の家に遊びに行った。約束通り母親がおいしい料理を用意してくれていて、酒もいろいろと取りそろえてくれていた
さんざん食べて飲んだ後、じゃあ帰ろうとなったとき、S井が見せたいモノがあるというので、ソアラの駐車場までみんなでついて行った
S井「買っちまったカロッツェリア」
私「マジか…これ30万くらいすんじゃね?」
そう、こいつが金がない、金がないと言っていたのは、これを買ったからだった。つまりソアラは買って貰ったが、カロッツェリアまではムリだったということだ
と言うことはだ、私が驕っていた金はカロッツェリアに化けたことにもなる
私は『チッ!』と心の中で舌打ちして帰宅の途についた
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それから1週間ほどしてからだったと思う。S井が深刻な顔をしてこう言った
S井「俺のカロッツェリア知らねぇ?」
私「は?ソアラに積んであんだろ?なんで?」
S井「窓割られて盗まれたんだよ」
私「マジかよ?そらひでーけど何で俺に聞くの?知るわけねーじゃん」
S井「お前ら場所知ってんじゃん」
こいつマジかよと思った
私「えー?よりにもよって俺ら同期を疑うのかよ、いい加減にしろよテメェーふざけんなよ」
S井「…」
いくら金欠とはいえ、同期のモノを盗んで売るとかありえない。これ以降、私とS井とは公私ともに絡むことはなくなった…
以前の第8話のブログで私は友人に裏切られたことが幾つかあったと言ったが、この件がその一つだ
もう一つは、第14話で書いたブログにあるが、バイトに誘った中学の同級生の仲間にバットで襲われそうになったときだ
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そしてさらにもうひとつある
本当に嫌な思い出だからあまり語りたくはないが…。
それは中学時代の同級生が私のキャッシュカードを盗んだ件だ。後から考えるとおかしいことは沢山あった
週に何度も遊びに来るし、キャッシュカードの暗証番号をやたら訊くしで、しつこいから誕生日だと言ってしまったことが悪かった
ある日、キャッシュカードがないことに気づき、平和相互銀行に行きキャッシュカードを紛失したと言った
銀行員「確認しますね、少々お待ちください」
ほどなくして銀行員が言うには、すでにATMから下ろされていると言う
私「本当ですか?」
銀行員「ビデオ録画があります、見ますか?」
私は銀行員とともにビデオを見た。同級生だった
ATMを操作して金を引き出していた
私「友だちです、信じられない…」
銀行員「あ、戻ってきてまた2千円下ろしてますよ。悪質だなぁ…」
私は頭が真っ白になった…。
銀行員「残高が1千円未満になるまで下ろしているのは悪質です。すぐに警察に来て貰いましょう」
私「はい、でも友だちなんで何か事情があったのかも…」
銀行員「それは甘い考えですよ、最後の2千円まで下ろしてるんですよ?本人のためにもなりませんよ!」
私はどうしても警察沙汰にするには踏ん切りがつかなかった
この後の経緯は語りたくもないので省略するが、結局、警察には届けなかった。だが、今思うと銀行員のいうとおり警察に届けるべきだったと思う
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私の金欠はボーナス時期になると多少は緩和されたが、慢性的な欠乏症の特効薬にはならなかった
正社員で働いているにもかかわらず情けないが、私は休日に日払いのバイトがないか、新聞を買ってきてバイト募集欄をくまなく探した
するとこんな募集が目に入った
『ホスト募集、日給1万円から。即日日払い可能、場所:赤坂
願ってもない好条件だった
たった1日で1万も貰えるのか、それも日払いか、これだと思った。私は早速募集先に電話を掛けてアポをとった
数日後、私は雨の中、買ったばかりの新品の傘をさして赤坂のその事務所に向かった
その事務所はこ綺麗なマンションの一室にあった。ベルを鳴らすと女性の声で『どうぞお入りください』と案内された
中に入るとタンクトップ姿で飛び切りの美女が出迎えてくれた
タンクトップに短パン姿、たわわに実った胸は推定Gカップはあろうかというシロモノを揺らしながらソファに座るよう促された。私は新品の傘を傘立てに立てた
私「よろしくお願いします」
奥からもうひとりイカツイ角刈りのオッサンが現れた。一目見てそれとわかる、その筋の人だった
ヤーサン「うん、よろしくね、リラックスして。一応身分証みせてくれる?」
私は言われたとおり会社の社員証を渡したが、チラッと見るなりすぐに返された
ヤーサン「君、英語できる?」
私「英語ですか?そうですね、中学生英語ぐらいでしょうか…」
ヤーサン「うん、簡単な会話ぐらい出来そうだな。君は人気でるかもしれないよ、やってみるかい?」
私「はい、具体的には何をすればいいでしょうか?」
私はこの後の話をきいて戦慄を覚えた
ヤーサン「あれ持ってきて」
すると、たわわな美女が大人のおもちゃを持ってきてテーブルにトンと置いた
ヤーサン「これでな、外国大使館の奥様方を慰める仕事、若い男を希望してるから君はぴったりはまるよ」
するとヤーサンの奥でたわわな美女が目と身振りでこう合図した
たわわな美女『あっちで使い方教えてあげる!』
私はこのブログで何度も言ったが、ヘイポーである。こんな恐ろしいことに関われるはずがないではないか。私はすかさず首をひねってこう言った
私「すいません、自分にはとても勤まりそうもありません、お時間を取らせてしまって申し訳ありません。今日はこれで失礼いたします」
そう言うと私は慌てて立ち上がり、玄関で一礼してマンションを飛び出た
『あっ、しまった!傘を忘れてきた』
だが、とても戻る勇気はない。しょうがないからと傘は諦めることにして赤坂見附駅まで濡れながら走った
こうして休日にバイトする計画は頓挫した
知らなかった。ホストのバイトと書かれていたから、てっきりおばさんの横で酒を飲んでいればいいと思いこんでいた。私は新聞に掲載された仕事は二度と手を出さないと決めた
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そうは言ってもやはり金欠であることに変わりはない。どうしようかと考えあぐねていた
ある日、暗証番号を変更して使えるようになったキャッシュカードを持って近くの銀行に行った。そのATMは数人しか入れない狭い個室だった。私が入ったときは誰もいなかった
ATMを操作しようしたとき、ATMのキャッシュ取り出し口に数枚の万札が飛び出ているのが目に映った。午後3時を過ぎていて銀行員も客も誰もいない。私ひとりだ。目の前に映る数枚の万札は、喉から手が出るほど欲しい
私は一瞬、盗って走って逃げようか迷った
だが、私は悪魔を振り払った。それではキャッシュカードを盗ったあいつとおなじではないか。インターホンを押して銀行員を呼び出した
銀行員「はい何か?」
私「あの誰かお札を取れ忘れた人がいるみたいですよ」
銀行員が出てくるとお札を確認してなにやら操作していた。私の身分証を見せろというので渡してコピーも許可した。電話番号も訊かれたがアパートに電話はないからと伝えた
私は自分の金を下ろした後、とぼとぼ歩いていると、スーツを着た若い男が血相を変えて銀行のほうに走り去った
私は大笑いした。きっとあの男だ。年は自分と変わらない感じだから、きっと大切な金だったんだろう。盗らないで良かったと思った
数日後、再びその銀行のATMに行くとあのときの銀行員と目があって話しかけてきた
銀行員「先日はありがとうございました。すぐご本人が取りに見えられてすごく感謝されてました。それとお礼をしたいからと申されていましたが、何かご希望はありますか?」
私「お礼は辞退します、今後お気を付けくださいとだけお伝えください」
相手がオッサンなら貰ったかもしれない。だが、年格好が同じようだったから辞退することにした
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相変わらず金がない
もう、『カップラーメン+ライス』もいい加減飽きてきた
私は禁断の果実に手を出した。会社から支給されている定期券を解約したのだ。解約しても一時しのぎにしかならないし、返って損することは目に見えていた
それはわかっていた
だが、飲みに行く誘いもあったり、もう少しマシな物を喰いたい気持ちが勝ったのだ
私は束の間の安堵感に包まれた
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私が仕事帰りに改札口で切符を買っているとM澤先輩に声を掛けられた
(※M澤先輩のことは下記のブログでも取り上げている)
M澤先輩「あれー?どうした定期は?」
私「あ、何か酔っぱらった時に落としちゃったみたいで…」
M澤先輩「ふーん、もったいねぇな気をつけろよ」
私は嘘をついた。本当のことはとても惨めで言えないからだ
一週間くらい経ったある日、出社するとA山女史に声を掛けられた。A山女史は課内で経理を担当している30才くらいの先輩女性社員だ
A山女史「定期券なくしたんだってぇー?ダメじゃーん」
私「すいません、何か酔っぱらった時に落としちゃったみたいで…」
A山女史「しょうがないなぁ、今回だけだぞ!」
そう言うと私に新しい定期券を渡した
私「え?定期券?なんでですか?」
A山女史「だから…みんなには内緒ね、お金ないんでしょ?今度だけよ」
私「…ありがとうございます、ありがとうございます、助かります!」
私は何度も何度も頭を下げて感謝した。そして本当にあのとき、ATMの金を盗らなくてよかったと思った
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今にして思えば、A山女史がどうやって定期代を捻出したのか、どうしてもわからない
正式に会社に請求できるわけがない。理由がないからだ。私も請求書も何も書いていない。考えられる事は二つだ
・不正経理を行った
・自腹で立て替えてくれた
だが、どちらも考えられない
同じ課だったとはいえ、10才近く離れた男性社員のためにそんなことするはずがない。そう考えるのが自然だ
では何だ??
答えは未だに出ていない…。
(…次回(第19話『ふたりのお母さん?あるとの別れ』)に続く)