Tubakka’s blog

初老オヤジの青春時代の実話体験談。毎話読み切り。暇で暇でしょうがない時にお勧め。

(第10話)ホントの初体験?渋谷のラブホは坂の上

渋谷のラブホ街 丸山町

高2の春、電話が鳴った

母「はい、ベンガル君?ちょっと待ってね。ベンガル君から電話よー」
(※ベンガルは中学時代の同級生。若いときのベンガルに似ているから仮にベンガルと呼ぶことにしている。前回のブログ『初体験?彼女とお泊まり大晦日』で私の失恋を慰めてくれた友人)

私「俺、どした?」
ベンガル「おっ、オレオレ。イヤー今、直江津から掛けてんから手短に言うわ」
私「直江津?どこ?」
ベンガル「新潟の。小銭切れちゃうから用件だけ。わりぃけどさ直江津の病院までマンガ持ってきてくんない?暇すぎなんでさ」
私「はぁ?」
ベンガル「細かいことは小薮ってヤツから説明させるからさ、来週のゴールデンウィークに頼むわ」
私「急に何言ってんだよ」
ベンガル「いいから頼むよ、彼女紹介する件、進んでんぞ、じゃよろしく」

電話は切れた
なんだなんだこの電話は。新潟?直江津の病院?さっぱりわからない。とにかく小薮ってだれだ?

直江津駅直江津駅(なおえつえき)は、新潟県上越市東町にある、当時の国鉄(現JR東日本)の駅である。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

母「はい、ちょっと待ってね。小薮くんて人から電話よー」

小薮?あーベンガルの言ってたヤツか
(※ベンガルの高校の同級生。仮に小薮と呼ぶことにする)

私「電話代わりました」
小薮「あっ、俺小薮って言います。ベンガルの高校のダチです」
私「うん、聞いてます、直江津の病院まで来いって言われたけど?」
小薮「うんそう、実はね…」

話を要約するとこうだった
・学校の部活で上越の春スキーに行った
バックカントリーに憧れてコース外を滑った
・ミスって木に衝突、膝を複雑骨折して入院してる
・暇だからマンガとか小説持ってこい

バックカントリースキー』スキー場など管理されたエリア以外で、スキー、スノーボードをすること。基本的にリフトなどを使わないで、自分の力で登って、自然のままの地形を滑る。もちろん圧雪車が無いので、パウダースノーが楽しめる。

私「わかったけどさ、送れば良くない?」
小薮「うんそう、そうなんだけどさ…ちょっと電話じゃ言いづらいから。明日ベンガルの家に集合しようよ、詳しく説明するから」
私「わかった」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

翌日、ベンガル家の前に小薮は居た。初対面の挨拶を交わすと、すぐに打ち解けた

小薮「お互い振り回されるよな…」
私「マジそう、直江津とか行くのいくらかかんだろ、金ねーし」
小薮「金はそんなかかんねーみてー、親御さんが出してくれるらしい」
私「え?そーなん?マンガのためにそこまでしてする?」
小薮「それな!…中で話そう」

『ピンポ~ン』とベルを鳴らした

ベンガル母「はーい、まぁこのたびはわざわざ息子のためにゴメンなさいねー、さ、どうぞ入って」
私と小薮「失礼しまーす」

ソファに案内されるとお茶を持ってきてくれた

ベンガル母「本当にごめんなさいねー、わがままに育っちゃったから、へんなこと頼んでねー。宅急便でいいじゃないかって言ったんだけども、寂しいから友だちに会いたいって言うのよ。それでね入院も6月一杯かかるって言うし、お願いすることにしたの」

ようやく事情が飲み込めてきた

私「いえ、友だちなんで気にしないでください」
小薮「僕なんて一緒に滑ってたから責任感じます」
ベンガル母「まー、そんな責任なんてないのよ、あ、そうそう先に大事なこと済ませちゃいましょ」

ベンガル母は私たちに1万円づつと往復の電車の切符をくれた

ベンガル母「車中2泊のちょっときつい旅になるけどゴメンね、これ使って」
私と小薮「ありがとうございます」

深夜発、上野⇔直江津間の寝台列車の切符だった。私たちは『おぉー』と言った。寝台列車なんてなかなか乗れる機会がない。急に楽しくなってきた

ベンガル母「じゃ、お願いねー。あの子の部屋から何でも持って行ってあげてね」
私と小薮「わかりました」

部屋に入ると小薮がドアを閉めた

小薮「あのさ、言ってなかったこと言う」
私「何?」

 

小薮「持ってくのさ、マンガじゃなくてエロ本!」

 

私「マジッ?」
小薮「シッ!声がでかいって」
私「俺らヤツの下の世話するの?」
小薮「まーそう言うなよ、考えてみ?3ヶ月も入院でさ、骨折したけどあっちは元気だろ?」
私「そりゃそうだなー」
小薮「だろっ?現地で調達もできねーと思うよ、今ほとんど歩けねーらしいし」
私「だなー」
小薮「そうなると必要だろ?でもさすがにお袋さんに頼めねーじゃん」
私「頼めないわなー」

呼ばれた理由は納得はしたが、釈然としない。何で俺もなの?小薮だけでいいじゃん

小薮「じゃ、探そっか」

私たちは本棚の奥、ベットの下、押し入れの中などあらゆる場所をしらみ潰しに探した。出るわ出るわ、ザックザク。そのとき小薮が固まった…

小薮「あいつ、このスジの強者か!」
私「ん?どれ?」

 

小薮「見たことねーほどのスカトロ!ほら」

 

私「ゲッ!」

 

-- スカトロ --
いや、勘弁して!これは解説できないから。検閲引っかかるわ、自分でググッて!だけどクグッたあと、履歴削除したほうがいいと思うよ、家族や同僚が見たら人格疑われるからね

 

それは気分が悪くなるほどのレベルだった…。

私「しかし、こんなにあるとどれ持ってこーか?エロ本のジャンル広いなー」
小薮「あれ?だから呼ばれたんじゃないの?あいつ俺の好みよく知ってるヤツ紹介するって…」

 

私(小声で)「ヤツのエロ好みなんて知るかーー!」

 

私が呼ばれた真の理由がわかったのだった。だがヤツのエロ本の好みなんか知るか!!

小薮「あっ、そーなの。じゃ適当に広範囲なジャンル入れとくか」
私「いいけどこれどーする?」

例の気分が悪くなるやつだ

小薮「まーなー、『たで食う虫も好き好き』って言うから入れとくか」

 

-- 『たで食う虫も好き好き』 --
「蓼(たで)食う虫も好き好き-辛い蓼を食う虫があるように、人の好みはさまざまである」(広辞苑)。 この有名なことわざの蓼は、タデ科植物のヤナギタデ類のことで、刺身のつまに付いている赤や緑色の小さい二葉の芽(かいわれ)がそれである。 その葉は辛く、虫だって敬遠するだろうということでこのことわざができた。

 

かくして用意したスポーツバッグ2つにギュッと詰め込んで準備は整った

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上野駅で待ち合わせると私たちは寝台列車に乗り込んだ。気分は上々、ワクワクが止まらない。発車のベルが鳴り響くと、まもなく列車は走り出した。寝台の場所を見つけると一息ついた

私たちは夜景を見ながら買ってきた缶ビールで乾杯した

小薮「なんか冒険気分だよなー」
私「ホントそう、マジ感動だわー」

小薮は持ってきたウォークマンのヘッドフォンを私に掛けると『時間よ止まれ』を聞かせてくれた

『時間よ止まれ』は、矢沢永吉の楽曲で5枚目のシングル。1978年3月21日発売。

流れる永ちゃんの歌声が夜景に溶け込んだ。レールの軋む音と揺れる列車。このまま時間が止まってもいいなと思った

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

朝7時過ぎに列車は直江津駅に着いた。

さわやかな新潟の風、ゴールデンウィークまっただ中の天気はピーカンだった。私たちは病院まで急いだ。 目当ての病室に訪れるとベンガルはいた

小薮「よっ!足どうだ?」
私「感謝しろよー、ド変態」
ベンガル「おーっ、遠いとこわりぃわりぃ。ちょっと出よ」

ベンガルは松葉杖をつきながら外のベンチに案内してくれた

ベンガル「いや、悪かったよ遠いとこスマン」
小薮「別にいいって。寝台乗れたしよ」
私「けどよー、お前のエロ本の好みとか知らねーよ」
ベンガル「ん?好みじゃねーよ、スカもんは要らねーって意味。前に言ったじゃん、スカもんは…」

 

「オヤジの趣味だってよー」

 

私「マジかーーーー!!」
小薮「うわーっやっかいな…」

3人は爆笑した。ベンガルは続けた

ベンガル「オヤジ、自分の趣味本を隠すのに俺の部屋つかってよー。お袋にバレても俺のせいにしてよー、お袋がスカもんみてビックリで、オヤジに相談してるとか落語かよ」

3人はまた爆笑した

私「思い出した!その話前に聞いたな」
ベンガル「だろー?だからスカもんはいらねーって意味で頼んだんだよ」
私「わりぃー、それな持ってきた!」
ベンガル「マジ要らねーわ」

3人はまたまた大爆笑した

ベンガル「あっ、そういえば女紹介の件、ひとり脈あったぞ」
私「おーっ信じてたぞ」
ベンガル「来月退院したらセッティングすっから」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

6月の末、ベンガルは退院した。早速紹介してくれるという

ベンガル「次の日曜、渋谷109な。俺の彼女の紹介だから4人でな」
私「ダメもとで砕けにいくかー」

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109前、その子は遅れてやってきた。なになに可愛じゃんか。ベンガルは私を見ると『どうだ』と眼でいう。もちろんOKだ
(※その子は菊名駅に住んでいた。仮に菊女と呼ぶことにする)

菊名駅』(きくなえき)は、神奈川県横浜市港北区菊名七丁目にある、東急電鉄・当時の国鉄(現JR東日本)の駅である。

菊女「ごめーん、遅れたー」
ベンガル彼女「うーん大丈夫ー、紹介するね」

紹介が終わると東急ハンズ横のカフェバーに入った。普通にコーヒーを注文して会話が進んだ。ベンガルの複雑骨折のときの話がアイスブレイクに一役買った

ベンガル「いけると思ったんだよ、自信あったからさ、したら小藪が俺の前で転ぶからさぁ、避けようとしたら木にぶつかったって訳。もーさ、あいつ轢いときゃよかったぜー」

けらけらと笑う菊女が可愛い。ここは負けていられない

私「でさ、退院して家に戻ってきた日、ちょっと雨降って雷がバリバリし始めたんだよ、んでさ、俺がこいつに言ったんだよ、『やべーぞ、膝の金属に落ちるぞー』てさ、こいつ泡食ってやんの」
ベンガル「一瞬信じた俺が恥ずかしい…」
菊女「おっかしぃー、落ちなくてよかったじゃん」
ベンガル彼女「でも、この間自分で『俺、キカイダーになった』って言ってたじゃん」

人造人間キカイダー』は、空前の「変身ブーム」と特撮変身ヒーロードラマ『仮面ライダー』(毎日放送)の成功を背景に、同じ原作者・制作会社が『仮面ライダー』との差別化を図って[1]、NET(日本教育テレビ)とともに世に送り出したテレビ作品である。

笑い声が絶えず、それなりに会話が弾んだと思った。でもどうだろう。いつものことだが自信はなかった
すると渋谷駅までの帰り道、唐突に言われた

ベンガル「出たぞOK、感謝しろよ!」
私「えっ?もう?」

後ろの2人を見ると菊女は俯いて恥ずかしそうだ。ベンガル彼女が胸元に親指を立ててニコッと笑った。この子の笑顔もすばらしく可愛い

ベンガル「お前彼女送ってけよ、菊名まで」
私「えっ?イキナリ?」
ベンガル「グスグス言わせねぇよ?」
私「わかった」


それからひと月、上野動物園隅田川花火大会、江ノ島と湘南の海、私達は順調に交際を重ねていった
(※『6畳2間?2万6千円』では単に彼女と書いていたが、実はこの菊女のこと)

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菊女「ねっ今日、横浜行こ?」
私「横浜?いいね」

私は思った。まさかのドルフィンはないよな
(※ドルフィンの件は『初体験?彼女とお泊まり大晦日』参照)
菊女「氷川丸って、乗ったことある?」
私「氷川丸?ないないー、乗ってみたーい」

真夏の夕暮れ。人はまばら。氷川丸の甲板は潮風が心地よかった。海を見つめる彼女がキレイだ。『江ノ島ってあっちかなー?』と訊く彼女の横顔を見つめていたら、私はまたしても恋に落ちた

【イメージ画像】海を見つめる彼女。こんな感じでまたまた恋に落ちたなー。

手を引いて甲板の先端に連れ出すと背中から抱きついてキスをした

菊女「恥ずかしいじゃん、もォー」

彼女はクスクスっと笑った

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ベンガル「俺との約束はどうなった?もう結構たつよな?」
私「いや、それな!考えてるんだけどさ、場所がな」
ベンガル「お前んちじゃダメなん?昼間誰もいねんじゃねーの?」
私「いないけどさ。真昼間からおっぱじめますか?二人の初体験、雰囲気も大事よ?」
ベンガル「俺気にしねーけどな、意外と繊細だな、よしっ、わかった任せろ。次の土曜109全員集合な!」
私「何する気だよ」
ベンガル「いいから任せろ」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

土曜日午後、まだ陽は高い。道玄坂から歩いて坂を上ると丸山町に出た

ベンガル「ココにしよ!」
私「何が?」
ベンガル「いいから行くぞ」
ベンガル彼女「早く早くっ」

いわゆるラブホだった。彼女が『えっ?』という顔をしている。私はベンガルを引っ張って小声で言った

私「真昼間は雰囲気が出ねぇーっていったのにMAX怪しいラブホかよっ」
ベンガル「お前のそういう踏ん切りつかねーとこ、俺嫌い」

ベンガルは私の背中を押してラブホに無理やり押し込んだ。彼女もベンガル彼女に手を引かれてついたきた
ベンガル「もう、払ったから俺らからのプレゼント!」
ベンガル彼女「はい鍵~、ごゆっくりー」

鍵を渡された。二人はクスクス笑いながら行ってしまった。もう引き返せない。私は彼女の手を強く握った

私「行くよ!」

彼女はコクンと頷いた


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私と彼女が大人の関係になってしばらくたったある日、彼女は話があるという。私の頭に前回の別れの場面がよぎった。おかしいな、なんかしたかな。
翌日、菊名駅の近くのいつもの喫茶店で会った。注文を済ませるとちょっと、ちょっとと顔を近づけてきた

菊女(小声)「話なんだけどさぁ、前から相談されてるんだけど、ベンガル君さ、へんな趣味あるの?」

良かったー、別れ話じゃないんだと思った

私(小声)「へんな趣味?」
菊女(小声)「うん、言いにくいんだけどね、男の子がH本見るのは知ってるし、彼女もそれは了解なんだけどさ、何かね…うーんとね…へんなキタナイ本があるっていうの…」

 

あっ、あのスカものか!ヤベー見つかってんじゃん彼女に。バカじゃん

 

私は取り繕う方法を思案した

私(小声)「あっ、それ俺もベンガルから聞いたことある、前にほら、直江津にお見舞いに行ったっていったじゃん」
菊女(小声)「うん」
私(小声)「そんときの小藪がお土産にふざけて渡したんだよ、シャレシャレ。早く捨てろって言っとくから」
菊女(小声)「あーっ、何だそうだったの。なんだあたし相談されてさ…あの子…」

 

菊女(小声)「ヘンタイかなって悩んでた」

 

マジかっ!スゲーウケるけど、顔には出せない!!

私(小声)「バカッ、そんなわけねーじゃんか」
菊女「あーっ、だよねー、伝えとくね」

その夜、私はベンガルに電話した

ベンガル「えーーっ!マジかっ!やべー」
私「小藪のせいにしといたから、感謝しろよ!」
ベンガル「いやー助かったわ、わりぃわりぃ」
私「これで彼女紹介の借りチャラな?」
ベンガル「わかったわかった」
私「あの雑誌、早く捨てろよ!」

 

ベンガル「捨ててんだけどよー、毎週買ってくんだよなーオヤジ」

 

そんなん知るかよ
私はオヤジと話し合えよと吐き捨てて不毛なこの電話を切った…


(次回『お嬢突撃?一宿一飯の恩義』…に続く)

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