今回は以前のブログ(『約束シカト?中1初恋5万円』)で少し触れたお嬢とのエピソードを話そうと思う
中学3年の1学期の期末テストが終わった頃だったと思う
私の班は放課後の掃除をしていた。私はコッソリ抜け駆けしてサボろうと教室を出た
キツイ子「ちょっと!あんた掃除当番ちゃんとやっていきなさいよねっ!」
うへっ、見つかったか!振り向くとお嬢だった。お嬢はクラスで1、2を争う美人だったが、少し物言いのキツい子だった。同じ班だった私は反射的に反発した
私「うるせぇなブス、放っとけよ」
この一言がいたく彼女のプライドを刺激したことは間違いない。私は翌日、担任のY尋に呼び出しをくらい往復ビンタをお見舞いされた
(このエピソードは『俺が先生?地獄のほふく前進』参照)
お嬢「アラーッ!お顔があこーございましてよ、どうなされました?」
私「やっぱお前か!」
お嬢「今日もオサボリ遊ばすの?」
私「うるせー!お嬢様口調むかつくから止めろよ」
私にとって彼女は恋心を抱く存在ではなかった。美人過ぎてあまりにも私とのイケてるランクに開きがあったため、対象に入らなかったというか、そんな感じだった
放課後、しぶしぶ箒を手に取る私を見てお嬢は言った
お嬢「その調子、その調子。よろしくてよ」
こいつのざーたらしい口調ホントむかつく。だが同じ対応をしてもこの流れは変わらない気がして私は逆張りをした。右手を胸に充ててお辞儀をしながらこう言った
私「ハッ、お嬢様、何なりとお申し付けくださいませ」
彼女はフッと笑った。私も笑った。見ていた同じ班の誰かが言った
「なんのコントそれ?」
私たちはもう一度笑った。この一件以来、私は彼女をお嬢と呼んだ
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
急速に近しい仲になったある日の放課後…
お嬢「水川に聞いたけどさ、あんたんちに美味しいコーヒーがあるらしいじゃん。試してあげてもよろしくてよ」
(※水川のエピソードは『約束シカト?中1初恋5万円』を参照)
私「ハッ、お嬢!ってマジ?うち来るってこと?」
お嬢「えーいいじゃん、飲ましてよ」
私「まー、いいけどさ」
ウチまでの道すがら話しながら歩いた
お嬢「なんかさー、ウチの親ヤバそうなんだよね」
私「どういうこと?」
お嬢「最近、ケンカばっかしてさ、離婚しそう」
私「そうなんだ、ウチは親父が小4の時亡くなってるからわかんないけど」
お嬢「あ、ごめん、へんなこと言って。忘れて」
私「ハッ!忘れましたお嬢様!」
お嬢「よしっ!許してつかわす」
私「ん?それお代官じゃん」
2人してギャハハと笑っているうちに家に着いた。ブルマン100%のコーヒーをミルで挽いた一品をトレーに乗せた運んだ
私「お嬢様、お召し上がりください」
お嬢「んっ!食してつかわす」
私「だからそれまたお代官じゃん」
またギャハハと笑った。
お嬢「あっ何これ激ウマ、激ヤバ!チョーうまいじゃん、香りがさぁー、ハンパなくいいじゃん」
私はブルーマウンテン100%豆の自慢をした
ジャマイカにあるブルーマウンテン山脈の標高800から1,200 mの限られた地域で栽培されるコーヒー豆のブランドである。
ブルーマウンテンの特徴として、香りが非常に高く、繊細な味であることが挙げられる。香りが高いため、他の香りが弱い豆とブレンドされることが多い。
限られた地域でしか栽培されないため、収穫量が極めて少なく、高価な豆としても知られている。豆の品種は、他のジャマイカ産の豆と同じ物であるが、過酷な環境により栽培され、厳密な検査により選別された結果、繊細な味を実現している。ジャマイカから輸出する際、他のコーヒー豆なら麻袋等に入れるところ、ブルーマウンテンに限り木の樽で出荷される。
ブルーマウンテン
これを機会に水川に加えてお嬢もウチを喫茶店として利用する常連となった。だが、特に彼女とかそういう関係に発展することは当然なかった
とはいえ、私には密かに思う気持ちは少なからずあったと思う。だが、あまりのルックスの落差にそんな気持ちは振り切られていた
そしてそのまま卒業となった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれから5年ほどたった20才くらいの頃、京浜蒲田を歩いていたら派手な化粧と真っ赤なワンピースに身を包んだ女が向こうから歩いてきた
私「ん、どこかで見たような…お嬢?」
パッと眼があった
お嬢「あーっ!執事!」
私「誰が執事だよっ!」
二人してギャハハと笑った。彼女は昔のままだった
お嬢「ね、飲み行こ飲み!」
私「えー?まだ3時じゃん、陽ー高っ!」
お嬢「えー、いいじやん、夜仕事だもんあたし。ダメ逃がさない!コレッ!お嬢に従え!」
私「ハッ!かしこまりした!」
お嬢「ヤッター、やっぱ執事じゃん」
私「しょーがねぇ飲るか」
と、言いつつ私は再会できたことが、ことのほか嬉しかった
当時、蒲田は新宿にも劣らないほどの飲み屋の数で夜明けから昼までやってる店とか、夜中だけやっている店とかさまざまあった。要はいつでも飲めた
私たちは居酒屋のカウンターに座った。板前がチラチラ彼女を見る。奥の板前もだ。店のお客も同じだった。そう、お嬢はTVでよく見るアイドル級の美人に成長していた
私はさらに開いたルックスの落差に開き直ることにした。中学のとき以上にズケズケ言い、よもや変な感情が湧き出る隙間はない
お嬢「あんた何今やってんの?リーマン?」
私「そのとおり!しがないリーマン、お嬢は?」
(※リーマン≒サラリーマン)
お嬢「お水。食ってくの大変だからさー、ホステスやってま~す」
私「マジか、ま、そんないでたちだもんな」
お嬢「悪いか!」
私「とんでもございません、お嬢様!」
お嬢「よろしい!」
ギャハハと笑う顔がまた美しい
お嬢「ねぇ、まだあの家に居るの、電話番号教えなよ」
私「もう出てるよ、今は京浜蒲田の風呂無しアパート、電話無し」
お嬢「えぇー、激近じゃーん、見に行こ見に行こ!」
私「え、マジで!激キタナイ物件だよ、見る価値ナーシ!」
お嬢「いいじゃん、いいじゃん教えなよ、命令でゴザる!」
私「それもう忍者じゃんよう」
私たちは店を出るとアパートに向かった。京浜蒲田の商店街からアパートまでは5分程度で近い。すぐに着いた。
私には嫌だなーと思うことがひとつあった。できればアパートは見せたくない。理由は6畳間を3畳づづに襖で区切ってあるヘンな部屋だからだ。初めて来るひとは大抵爆笑して帰っていった
(※このエピソードは『6畳2間?2万6千円』を参照)
案の定、私の部屋はお嬢が倒れこむほどの爆笑をかっさらった。寝転んでバタバタと足を動かし、ヒーヒー言っている
お嬢「腹いてー、何でこんな狭いのに襖で区切ってんの、部屋でウケ狙ってんの初めて見たよー、ヒー腹いてー」
私「こうなるから見せたくなかったんだよなー」
お嬢「ゴメンゴメン、お詫びにさ、今度あたしんちも見せるよ」
私「えー?いいよ別に」
そうは言ったものの、どんなとこに住んでるのか興味があった
その日はもう仕事だからとそそくさとアパートを出た
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の週、お嬢に電話してやっぱり見せてと頼んだ
お嬢は立派なマンションの4階か5階だったかの2DKに住んでいた。私のアパートとは雲泥の差だ。私は収入の格差を見せつけられた気分だった
いやいや、友達がいい暮らしをしてるからって嫉妬はやめよう、と思い直した
私「スゲー部屋じゃーん、ここいくら?」
お嬢「知らない。あたし払ってないから」
私「へぇーいいなー、タダなんだ、お店の寮とか?」
お嬢「店に来るオヤジの持ちもん」
私「オヤジ?」
お嬢「そっオヤジ。コラッ!それでピンとこい!」
私「ハッ!了解しました!」
そういう事か。お嬢、愛人か…。
そのオヤジの事、本気で好きなら、それも人生だよな。でも違うとしたら…。
そう思うとさっきまでの嫉妬が悲哀に入れ替わった…。
お嬢「そんなことよりさ、店ハネたら、たまに飲みに誘うからよろしくね?なかなか夜中に誘える人いないしさー」
私は当時、24時間稼働のシステム保守のオペレーターをしていた。こんな感じの勤務帯だったので、誘いやすかったと思う
ご覧のとおり、A勤以外は午後からの出勤かもしくは休暇のため、夜中まで遊んでも比較的余裕があった
私「ハッ!了解しましたお嬢さま!」
お嬢「お返事がよろしい!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お嬢はたまにと言っていたが、深夜頻繁にやってくるようになった
その訪問の仕方がきつかった。なんせ、しこたま店で飲んだあとなのか荒っぽい。私のアパートの窓を叩いて叫んだりした
お嬢「ドンドンッ!いるのわかってんだぞー、出てこーい!」
私は窓をガラッと開けて静かに、静かにとシーッというポーズをしてなだめることもしばしばだった
私の給料は当時、手取りで12~3万程度しかなく、アパート代の2万6千円と光熱費、食費を考えると、そんなにしょっちゅう飲みには行けなかった
私はたまりかねて、居留守を使う日もあった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなある日、同僚のポンタと飲んだが遅くなり、このアパートに泊まることになった。ポンタも最初は部屋をみて大笑いしていたが、この時はすっかり慣れていた
(※狸に似ていたので仮にポンタと呼ぶこととする)
私たちが布団をかぶり床につくとお嬢の襲来が始まった!
お嬢「ドンドンッ!いるのわかってんだぞー、出てこーい!」
ポンタ「なにこれ?」
私「シーッ!静かに」
お嬢「あっいるじゃーん、声聞こえてるぞ!飲みいくぞー!」
窓をガラッと開けて静かに、静かにと繰り返し、結局飲みに行く羽目になった
お嬢「ポンタくんお初~、グイッといってグイッとー」
ポンタ「いやーびっくりしたよ、急な突撃によ」
私「悪い悪い、いいヤツなんだけど今日は飲み過ぎてると思う」
お嬢「そんなに飲んでまっせーーん」
ポンタ「いやスゲー嫌な思い出があっからさ、お化けのさ」
私とお嬢「お化け?」
(このお化けの話も長くなるので次回のブログ『百鬼夜行?国鉄寮は魑魅魍魎』に続く)
お化けの話をきいてこの日は解散となった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しばらくしたある日、最近突撃来ないよなーと思っていたらコツンコツンと窓を叩く音がした。窓を開けるとお嬢だった
お嬢「飲みいこーよ、奢るからさ」
私「そっかー?なんか悪いなー、じゃゴチになるわ」
居酒屋に着いてからはポンタのお化けの話で盛り上がった
お嬢「マジ、あんな話あんのー?絶対イヤー」
私「フカシフカシ、フカシにきまってんじゃん、ありえねー」
お嬢「えーなんか怖いよー、あたしなんかあれからさー、カーテンとかの隙間かならず占めるようになったモン」
私「おれは全然問題なし!」
お嬢「うわっーすごい嘘つき、旅行でばれてんだけど?」
(お化けの件は次回『百鬼夜行?国鉄寮は魑魅魍魎』参照)
ひとしきりバカ話をしたあとお開きにしようと店を出るとお嬢が歩かない
私「ん、どした?」
お嬢「今日さぁ泊めてくんない?」
私「え、マジ?ウチ?」
お嬢「んー、ちょっとさーあの部屋帰れないんだよねー今日」
え、自分の部屋なのに帰れないの?…と聞こうとしたが止めた。自分の部屋ではないことを思い出したからだ
私「んー、複雑な事情でもおありでゴザるか、よかろう泊めてしんぜよう」
お嬢「ふっ、忍者ダサッ」
笑いながらアパートに着いた
私「でもよ、今布団ひとつしかないんだよ、お袋が洗うって持ってっちゃった。だからこの布団使ってよ、俺毛布だけでいいよ、ストーブ焚いて寝るから」
お嬢「いいよ、遠慮すんなよ一緒にねよーよ」
私「俺んちで何で俺が遠慮なん?」
お嬢「一緒だと襲っちゃいそう?」
私「バーカ。いいよじゃ毛布と布団で一緒にねよ」
寝てはみたものの、寝付けない。当然だ。メッチャいい女が同じ布団に入っているのだから。するとお嬢はクルッと振り向いて頬杖をついた
お嬢「てかさ、マジでなんにもしないつもり?コラッ!正直に言え」
私「お嬢様、我慢してました」
お嬢「正直でよろしい」
どうもおかしい。彼女は顔色ひとつ変えない。いや変わらない、リアクションがまったくない。揺れが激しくなってもそれは私が果てるまで変わらなかった
私「・・・・・・・・・・。」
私「どうして?本気じゃないんだろ?」
お嬢は背中を向けた
お嬢「一宿一飯の恩義にござる」
私「ふざけんなよ」
お嬢「ふざけてないよ、今日泊めてくれてありがと。何も聞かないで。お嬢の命令ダゾッ!」
私はもう黙るしかなかった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日からお嬢は来なくなった
2週間が過ぎたころ電話してみたが『また今度飲もう』といってくれたが、一向に来なかった。そうなるとしつこく電話するのも気が引けた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから半年が過ぎたころ、お嬢が結婚するらしいと噂で聞いた。久しぶりに電話をかけてみると噂は本当だった
お嬢「うん、そう。岩手の人でさ、そに行くことになった。お祝いちょうだいよ」
私「マジだったか。お祝いね、ぜひ、あげたいけど、給料安くて大したもんあげられないかな」
お嬢「じゃさ、ストーブあったじゃん、ストーブでいいよ、頂戴?」
私「あんなんでいいの?ま、岩手寒いっていうしな」
後日、ストーブを取りにお嬢は夫になる人ときた。その人は精悍な顔つきのハンサムでお嬢にはお似合いの人だった
私は中学のクラスメートを男女混合で5~6人集めておいた。みんなからのプレゼントという形をとりたかったからだ
夫になる人がストーブを受け取ると同級生の一人が言った
同級生男「わがまま娘ですけど貰ってください」
私「バカ。失礼すぎるだろ。冗談ですから聞き流してください。今日はおめでとうございます」
同級生一同「おめでとうございます」
夫になる人「ありがとうございます」
私「お嬢様、お気を付けて」
お嬢「バカ、もういいよ、ありがとう」
ストーブを車に乗せて二人は旅立っていった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しばらく私は失恋した気分が抜けきれなかった
ある日、中学のテニス部でペア組んでいたN坂を誘って飲んだ
N坂「えーー?お前お嬢とやったのーー?いいなーマジかよー、チョーマブじゃん」
私「やったとか言うなよー、言葉選べよ、てかさ、なんかその最中、無人島の太平洋でさ、一人っきりで泳いでるような寂しさがあったんだよなー」
N坂「えーー?何それガバガバッつうこと?ウケるー」
私「バカ!そっちじゃねーよ、気持ちのこと言ってんの!」
N坂「なんだぁ」
ダメだこいつは。こいつとは話にならない。相談にも何にもならない。ハァー
N坂「でもよ、ストーブなんかなんで欲しいっつったんかね?岩手の実家にあるよな?フツー」
私「さーな、たまたま必要だったとか。すいませーん、生追加でー」
私の失恋気分が抜けるのはずっと先の事だった…