Tubakka’s blog

初老オヤジの青春時代の実話体験談。毎話読み切り。暇で暇でしょうがない時にお勧め。

(第14話)用心棒?逃げ足だけはスコぶる早い

高校3年の秋から卒業まで、私はレストラン・ポルカでバイトをしていた。そのときに出会ったY崎先輩との顛末はすでに語った(※詳しくはこちらを参照して欲しい)

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だが、レストラン・ポルカでの半年間は筆舌に尽くしがたいほど様々なエピソードがある。今回はそのひとつを取り上げたいと思う

 

『男泣き?Y崎先輩』でバイトの人数を増やそうと新人を入れたが、初日のあまりのハードな混雑ぶりに次の日から来なくなってしまったと書いたが、実はこれには続きがある

 

私は不足するバイトを増やそうと(なんせホール係は私とY崎先輩しかいないからだ)中学時代の同級生に声をかけた。どことなく俳優の『國村隼』に似ているので仮に國村と呼ぶことにする

俳優『國村隼』

俳優『國村隼

國村とは同じクラスになったことはないが、家が非常に近く会話することも多かった。進学先は別々だったが高校1年になると、彼は母親にねだってホンダの CB400 FOUR を買って貰った

私はバイクの後ろに跨がって、横浜の本牧埠頭(ほんもくふとう)や首都高1週ツーリングと称してあちこち連れてって貰ったことも良くあった

私はバイトに國村を誘ってみることにした

 

私「な、バイトやんねぇ?バイクの借金、まだ残ってんだろ?」

國村「まーなぁ、ババァに毎月少しずつ返せってせっつかれてるけど」

 

バイクを母親に買って貰ったとは言え、あくまで借金だったのだ。川崎なら近いしバイクで通勤なら飛ばせば15分程度でこれるからと、國村は承諾した(蒲田と川崎は多摩川を挟んだ隣街でバイクで飛ばすと一瞬で着く)

 

ホンダ『CB400 FOUR』

ホンダ『CB400 FOUR』

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

私「紹介します、國村です」

國村「よろしくお願いします」

マネージャー「おぅ、よろしく頼むぞ」

Y崎先輩「よろしく」

 

國村にはY崎先輩はヤンキースタイルだけど、いい人で優しいからすぐに慣れるよと事前に言い含めておいた。だが、実際に会ってみた感想はというと…

 

國村(小声)「あんなゴツくて金髪パンチって聞いてねーよっ」

(※パンチ≓パンチパーマ)

私「ダイジョブ、ダイジョブ3日で慣れるよ」

 

普段は暇なんだよ、客がひとりも来ない日もま、ま、あるよ。だけどお菓子工場とか近くの会社から宴会が定期的に入るから、その日は激忙しいよ、などを教えた

特段、難しい作業があるわけではないことから仕事は順調に覚えて貰った。でも、三角ナプキンの折り方には苦戦していたようだ。これはコツを掴むまでは失敗しやすい

 

Y崎さん「國村、お前何枚無駄にする気だ?」

國村「あっ、すいません、難しいです」

 

Y崎さん「ウっソ、ピョーン!」

 

私「もー、止めてくださいよビビらすの!」

國村「??」

Y崎さん「いーじゃんかよ、仲良くなる儀式みたいなもんだぜー?」

私「これ沢山あるから失敗とか気にしないでいいから!」

Y崎さん「ま、そういうことだ、ゆっくり覚えればいんだぜ」

國村「…わかりました」

 

それから二週間くらい何事もなく順調にバイト生活は続いた

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

そして超多忙となるあの日がやって来た。大規模宴会だ

そもそも何でこの店が宴会に選ばれるかというと、その広さにある。座席数は追加すると60席近くあったと思う。要は一度にそんなに入れる宴会場としては、ココ以外はホテルなどになってしまう。だが、ホテルだと高額になってしまう。それでココが選ばれると言うことだ

このレストランはハッキリ言って宴会だけで成り立っていたと言っていい

【イメージ映像】広島県三次プラザの「レストランV」当ブログとは関係なし

マネージャー「60人席用意だ」

 

今日は18時からの宴会。私と國村は16時入りだったと思う。宴席を作り替えてテーブルクロス張り直す。三角ナプキン、塩、胡椒などの調味料の瓶を掃除して各テーブルに配置する。大量の赤玉パンチワインをバケツに入れて氷で冷やす。厨房は60人分の料理を作り始める。できあがった順にキレイに盛り付けられた宴会用プレートをテーブルに配置していく。

 

そして18時。宴会客が来た。Y崎さんが生を作り始めた

 

私「國村、生、奥の席から持ってって」

國村「おぉ」

 

60人分の生と赤玉ワインを運ぶだけでもヘトヘトになる。案の定、國村はこのへんで疲れが見えてきた。宴会が進むと生の追加と日本酒の注文も入ってきた

 

私「生、俺やっとくから酒お願い」

國村「おぉ」

 

追加注文が一段落すると空いた皿を厨房に運ぶ。なるべく早くしないと皿洗いのおばさんが残業になってしまう

 

國村「ケッコーきついじゃんか」

私「でも宴会だけだから、ふだん楽だろ?」

 

こうしてこの日の宴会は終わった

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

マネージャー「あさって宴会はいったぞ、60席用意だ」

 

あー、また入ったんだと思ったが國村は『えーまた?』と言った。私は笑って『たまには続くことあっから』と言った

 

そして次の宴会から國村は来なくなった

 

Y崎さん「こないだの新人と言い、國村といい、みんなバッくれんのスキだぜ」

私「すいません、こんなヤツじゃないんだけど…」

Y崎さん「まー辞めるのはいいけどよ、制服洗いに持ってったろ?返させねーと」

私「わかりました、帰りに寄ってみます」

 

その日のバイト帰りに國村の家に寄った

 

國村母「あー、こんばんわ久しぶりねー、あの子でしょ?いないのよ」

私「何時頃帰ってきますか?」

國村母「もう2~3日ずっと帰ってこないの。多分ね、あの暴走族みたいな?友だちのとこに入り浸ってんのよ」

私「そうですか。あとバイトの制服ありませんか?辞めるなら返さないと」

國村母「知らないわ、制服なんて」

私「そうですか、わかりました」

國村母「もし見つけたら早く帰るように言っといてよ」

 

これはまずいと思った。『あの暴走族みたいな?』と言ったが族ではない。なんといえばいいか、それ以下というか、今で言う半グレっぽいやつらのことだった。族ならまだいい、話にスジをとおせばわかってくれるヤツも多い。だが、こいつらはダメだ

まずいぞ、まずいぞ、まずいぞ、まずいぞ。

 

私は困りに困った。なんせ私はヘイポーだからだ!

 

痛いのキライ、暗いのキライ、お化けキライだ。ケンカなどもってのほかだ

世界のヘイポー】斉藤 敏豪(さいとう としひで、1954年11月16日)は、日本のテレビ演出家。東京都品川区出身。『ダウンタウンガキの使いやあらへんで!』内での通称はヘイポー。大変なビビリで有名

私はY崎先輩に相談するしかなかった

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

私「…ってわけで、手に負えないヤツらのとこにいるみたいで」

Y崎先輩「ふーん」

私「あの…もし、良かったら一緒に行ってくれないスか?」

Y崎先輩「あっ?俺が?」

私「お願いしますよ、制服も家にないってお母さんに言われたし…」

Y崎先輩「…めんどくせーぜ」

私「そー言わずに!」

Y崎先輩「しょうがねぇか、貸しだぜ?」

私「ありがとうございます」

 

その日の夜、バイト帰りにヤツらのアジトに向かった。Y崎先輩は車をだすから乗ってけという。車はソフトタッチな族車仕様のハコスカだった

【イメージ映像】『ハコスカ』ハの字をきった後輪。オーバーフェンダーに車内はロールバー仕様だった

私「ものすごいゴツゴツ走るんスね」

Y崎先輩「サスめっちゃ硬いのいれてんからしょうがないぜ」

(※サス≓サスペンション)

 

目的地は大田区のマンションの一室だった。20分くらいで着いたと思う

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

マンションの横に車を止めた

 

Y崎先輩「まずは自分で行ってこい、俺がイキナリ行くと驚くだろ」

私「…ですね、ちょっとドキドキですけど。行ってきます」

Y崎先輩「なんかあったらココに戻ってくればいいぜ」

 

私は目的の部屋に着いた。部屋のベルを押した。

 

男A「どなたー?」

私「自分XXと言います。すいませんが、こちらに國村お邪魔してませんか?」

男A「あー?なんだぁ?」

 

ドアがガチャッと空いた。部屋の奥に國村がいた

私「おー、國村ちょっと話が」

と言いかけたところで出てきた男に胸をドンと小突かれた

男A「國村になんの用だテメェー」
男B「ちょっと来い」

そう言うと男Bはバットを持って近づいてきた。私は慌てて逃げだした。エレベーターは待っていられない。階段を駆け降りた。男たちは追ってきた。男Cも追いかけて来た。私はバットを片手に持った3人の男に追いかけられると、ハコスカに一直線に走った。この時の様子をY崎先輩は後にこう語っている

Y崎先輩「お前、カールルイスより早かったぜ」

どうにかハコスカまでたどり着いた私は息を切らして言った

私「ダメです、いきなり胸ぐら、ど突かれました」

Y崎先輩がハコスカから降りると追いかけてきた3人はバットをゆっくり下した

 

Y崎先輩「野球やるならよー、ひとりじゃ足りねーぜ、俺も入るぜ…」

Y崎先輩「文句ねーよなぁーーーーーっ!」

 

この怒鳴り声で私は固まってしまった

見ると追いかけて来た3人も固まっていた。浅草寺の仁王像のような憤怒の表情に気圧(けお)されたのだ。蛇に睨まれた蛙のように。もっというと黒龍波をまとった飛影に『俺と戦るのか?』と訊かれたザコ敵のように。

飛影(ひえい)は、冨樫義博の漫画『幽☆遊☆白書』およびそれを原作としたアニメや映画に登場する人物。黒龍波とは、飛影の必殺技にして邪王炎殺拳の最大・最強奥義。 自らの妖気を餌に魔界の炎の黒龍を召喚し、放つことで相手を焼き尽くす技。幽遊白書は1990年から週刊少年ジャンプで連載された。今回のお話よりずっと後の作品。

 

男A「…いえ、別に…野球はしません」

Y崎先輩「俺も野球しに来たんじゃねーぜ。このなかでアタマは誰だ?」
(※アタマ≒リーダー)

3人は互いに顔を見回した

男B「…一応、自分ですね」
Y崎先輩「俺ら國村のバイト仲間でよ、話しに来ただけだぜ。いいよな?」
男B「えぇ、別に…」

遠くで様子を伺う國村を見つけるとY崎先輩は手招きした。國村は近くまで来るとペコッと頭を下げた

Y崎先輩「バイト辞めんのかよ?」
國村「…はい、そうしようかなと」
Y崎先輩「電話ぐらいできねーのかよ、世の中ジョーシキだぜ」
國村「すいませんでした」
Y崎先輩「わかった。マネージャーには明日電話しろ、それから制服洗って早く返せ、いいな?」
國村「はい。わかりました、すぐに」

 

Y崎先輩「帰るぜ」

 

車に乗り込んで走り出すと私は感謝を伝えた

私「ありがとうございました。先輩がいなかったらボコボコにされてました」
Y崎先輩「あ~、危なかったぜ、3人もいやがってビビッたぜ」

Y崎先輩はゲラゲラ笑った


私は『絶対ウソだ』と思った

ビビッてたのはヤツらの方だ。もしも相手が向かって来たら気絶するまでヤツらをボコボコにしていただろう。あのオーラは修羅場をくぐり抜けた者だけが持つ、禍々しい殺気をまとっていたからだ

 

Y崎先輩「じゃ、借りを返してもらおうかな~??」
私「あっはい、バイト代がはいったら払います。いくらですか?」
Y崎先輩「可愛い後輩からカツアゲみたいな事できねーぜ」
私「え?じゃ何を??」
Y崎先輩「今度の土曜にダチと湘南に行くから女用意しろ」
私「え?無理っスよ、そんな女いませんよ」
Y崎先輩「じゃよ、蒲田の丸井前でナンパしてこい」
私「えーーー?ナンパーーー??」

それなら金払ったほうがいいよーと私はこの時思ったのだった…。

 

(…次回『(第15話)伝説のナンパ師?蒲田の丸井で踊り食い』に続く)

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