Tubakka’s blog

初老オヤジの青春時代の実話体験談。毎話読み切り。暇で暇でしょうがない時にお勧め。

(第17話)輪廻転生?一期一会のイケメン

【イメージ映像】超イケメンのタケ

今回は高校卒業間近に夭逝したタケ(仮)について思い出を残しておこうと思う

タケは高校の同級生であり、3年間同じクラスだった
彼を一言で言い表すならスターのようなオーラを放つ超イケメンだ
彼の伝説はいろいろあるが、例えばこうだ
・中高の時、何人もの女子学生から手紙を渡された
・手紙を渡してくる女子学生には遠方の子もたくさんいた
・高校に入ると彼女の一人に加えてくれと多くの女子高生から懇願された

もはや彼女にしてくれではなく、その一人にしてくれ、友達でもいいからと懇願されるようになっていた

高校に入学して初めて同じクラスになったタケを見たとき、スゲー男前がいるなと思ったものだ。顔だけではない。身長も175cm以上だったかと思うが、スタイルが良く、足も長くてスラリとしてた

私たちが通っていたのは工業高校だったが、公立だったこともあり私服の通学が許されていて、校則などは無いに等しく非常に緩い学校だった

タケはよくポロシャツに黒いスラックスを穿いて通学していた。これがまた抜群に良く似合っていた。立っているだけで絵になってしまう男だった

また、タケは暴走族ではなかったが、族連中とも非常に仲が良かった。話が面白くイケメンと相まって何か人を引き付けて放さないようだった

 

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高1の最初のホームルームの授業の時、私は遅刻をしてしまった。遅れて次の授業の時に教室に入るとみんなに笑われた

タケ「お前さ、学級委員長に推薦しといたからよ」
私「えぇ?止めてくれマジで?」
タケ「つーか推薦、通ったから決まりだけどな」
私「マジかよー、めんどくせー」
タケ「大事な時にいないお前が悪い」

かくして私は高校3年間、学級委員長となってしまった

 

この工業高校で最もキツイのは期末テストなどではなく、実験レポートの提出だ

毎週のようにある電気科の実験結果について、分析や考察をしてレポートに提出する必要がある

これが非常にキツかった

B4のレポート用紙にビッシリと10枚前後の作成が必要だ。レポートというより中身は論文のそれに近い。考察には根拠を示すグラフを作図する必要もあったりする。この分析や考察の分量が少なかったり、レポート内容が誰かの写しだったりすると突き返された

また、厄介なことにこの実験レポートは授業中には書き上げることが出来ない。時間がなさすぎるからだ。だから家に持ちかえって書くか、または教室に居残って書かなければならなかった
それが毎月何回もあり、年間にすると30~40冊程度を提出する必要があった

では、突き返されたまま放置するとどうなるか?

それは留年になる。これはダブりと呼ばれた

私たちのクラスにはいなかったが、他のクラスにはダブりが数人いた。ダブりはひとつないし、繰り返せばふたつ年上となってしまう。だから、大抵はダブったらみんな退学してしまう

期末テストの赤点は、再テストを受けたり、補習をうければなんとかなった。だが、この実験レポートだけは溜まってしまうと後から思い出して書き上げることは至難の業で、溜まってしまった生徒の多くが退学していった

どんなに校則が緩くても、この実験レポートの提出ルールだけは絶対に曲げてはくれなかった。どんなに遅くとも毎年2月末にはすべての実験レポートを提出しなければならない

私たちのクラスにはダブりはいなかったと言ったが、それはダブりの全員が退学したからだ。最初の1年でクラスの1割が消えた

どういうわけか知らないが、私はこの実験レポートを書くことが好きだった。

だから未提出はおろか、どんなにバイトが入っていても提出遅れ(次の実験授業までに提出が基本)もほとんどなかった。それがタケには私がマジメな男に映ったらしい

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

ある日の放課後…

タケ「お前にさ、頼みがある!」
私「レポートなら手伝わねぇよ」
タケ「金払うよ金」
私「やだね、どうせバックレるじゃん」
(※バックレる≒しらばっくれる)
タケ「頼む!一生のお願い!俺絶対ダブれないから!」
私「それみんなそう」
タケ「そう言わずに頼む!頼む!」

私は超イケメンのあまりのしつこさに根負けした

私「しょうがねぇな、今回だけだかんな」
タケ「さすが学級委員長!」
私「それ、スゲーむかつくかんな」

こうして実験レポートはタケの家で一緒に書くことになった

 

-- 読者諸君は言うだろう --
・何で一緒に書く必要があるのか?
・お前ひとりで書けばいいだろ?
残念ながらそうはいかない。レポートは直筆で書く必要があるからだ。そして教科の先生は必ず過去の筆跡と照らしあせて代筆をチェックする。筆跡が違うと書き直しのため突き返される。もちろん、レポートの内容は変更させる必要もある。私が書いたモノを手渡していたのでは時間がかかりすぎる。私がアドバイスしながら書いて貰った方が早いのだ
読者諸君、ご納得いただけただろうか?

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

ある夜、私はタケの家に行くことになった

私の家からタケの家までは自転車で30分程度だっただろうか。いわゆる隣町だった
タケの家は公団住宅の確か3階あたりだったと思う。ベルを鳴らして上がらせてもらう

家の中に入ると老夫婦と弟さんがいた。父親は足が悪いらしく引きずって歩いていた

そして何気なく弟さんを見ると違和感を覚えた

タケ「あ、弟なちょっとちげーから。気にすんな」
私「いや別に…」

おそらく発達障害か何か、そんな雰囲気を感じた

タケ「じゃ、始めっか」
私「お、すぐ終わらそ」

私は自分の実験レポートを思い出しながら、違う観点で分析と考察を提案した。これならコピーしたとは思われないからだ。また、タケの過去の実験レポートをみながら言い回しを真似した

タケ「お前スゲーな、これならバレねぇ」
私「どうかな、タケには出来ねー考察だかんなー、出来すぎててバレルかも」
タケ「くそっ!、今日だけは許しとくか…」

二人してガハハと笑った

私「どうでもいいけどよ、溜まってんなレポート」

確認すると3~4冊くらい溜まっていた

タケ「残りもよろしく!」
私「そうだと思った…」

乗りかかった船だ…。私は残りも手伝うことにした

 

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ある日、教室に入ると族のヒロ(仮)が話しかけてきた。ヒロはパンチパーマをかけていて学ランの裏生地に龍虎の刺繍を入れた本格派のヤンキーだ

(※当時の関東だと『ツッパリ』と呼ばれていたが、今は『ヤンキー』の呼称が一般化したのでこう呼ぶこととした)

【イメージ映像】学ラン 裏生地に刺繍入りの一品

ヒロ「お前さ、タケにレポート書いてやってんだって?」
私「ま、有料でね」
ヒロ「俺のも書いてくれよ、金払うからよ」
私「もう無理だ、時間が取れねーから」
ヒロ「書けよ」
私「ぜってーやらねー」
ヒロ「てめぇー」

ヒロはコブシを握ってみせた

私「殴ってもやらねーもんはやらねー。つかできねー」
ヒロ「そこを頼んでんじゃんよ!ダブるんだよこのままだと」
私「だから時間が取れねーんだよ、他にもいるだろ書けるやつ」

 

-- 読者諸君は言うだろう --
・お前よく断れたな
・前のブログで自分はヘイポーとか言ってただろ
・意外と根性あるんじゃね?
あなたは正しい。確かにその通りだ。だが、考えてみてほしい。今断るなら最悪2~3発を喰らう程度で済む。それを承諾して書けなかった場合、かつ、それが元で留年となった場合、私がどうなるのかを…
読者諸君、ご納得いただけただろうか?

 

ヒロは無駄だと思ったのかスゴスゴと退散した

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

タケの家。次の実験レポートに取り掛かっている

私「何でバラすんだよ、ヒロに凄まれただろ?」
タケ「わりぃー、つい口走った」
私「タケので手一杯だから、もう広めないでくれな」
タケ「わかった、わかった」

私は実験結果のグラフの作図を手伝うことが多かった。作図なら筆跡は関係ないからだ。ただ、数字や文字を書き込んだりするのはタケが行わなければならない。筆跡でバレるからだ

タケ「はぁー、めんどクセー。お前よく出来るなこんなの」
私「ん、まーそんな苦でもないよ」
タケ「マジメだなー」

タケ「お前がどんな顔でセンズリこくのか見てぇーよ」
私「見せるか!」

ゲラゲラと笑いながら良くくだらないことを言い合った

タケ「そういえばよ、この間、女が興味あるって言うから占い師のとこで姓名判断してもらったらよ」
私「どの女?たくさんいるからなー」

タケ「まー、聞けよ。そしたらよ、名前の最後の漢字が4画だから19才で大厄になるけどそれを超えたら大成するって言われたよ」
私「ふーん、占いとか信じねーけどなぁ。大成するってならいいな」

 

-- 4画の意味 --
タケの『姓+名』の総画数、姓の画数、名の画数の場合に最後の名前が4画だったパターンの姓名判断の占い結果。だから最後の名前が4画の人、全員がこの占いに当てはまるわけではないのでご注意ください

 

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高校1年の2月末。とうとうこの日が来た。実験レポートの未提出者が1割程度いたが、そのなかにヒロもいた

私は声を掛けることが出来なかった

ヒロと数人の退学者はひっそりと教室を去って行った

 

もちろん、タケは進級できた

 

一段落出来たと思ったが、それは2年になっても変わらなかった

タケ「またよろしく!」
私「もう、しょうがねぇか」

結局、私の実験レポートの手伝いは卒業まで続いた


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高校3年の秋、修学旅行があった

私は学級委員長として生徒を統率しなければならない
私は思った『そんな事出来るわけないと』

何しろヤンキーや自分勝手な連中の集まりだ。半ば投げやりだ

旅行先は四国の金比羅さんと安芸の宮島、広島の平和記念公園などだった

この旅でタケにまたひとつ伝説が加わった

自分も含めて、やはり統率など出来なかった。広島の旅館に泊まった際、夜になると酒を買いに出かけた(先生は見て見ぬふりだ)
このとき、タケのグループはお遊びでナンパをした。

そのときのひとりの女子学生がタケに心底惚れてしまった。
タケと高校の名前しか伝えていなかったにもかかわらず、その女子学生は、なんと数週間後の平日に広島から東京まで出てきて学校に押しかけてきた

タケという男はそれほど人を引きつける魅力の持ち主だったということが証明された逸話だ

 

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高校3年の3月、卒業を控えたある夜に電話が掛かってきた。それはタケの訃報を伝える電話だった

同級生A「車で湘南の帰り道、朝方120キロ、ノーブレーキで事故ったらしい」

頭を棍棒で殴られたような衝撃だった。信じられない

数日後、連絡をとりあってお通夜に参加した

 

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すっかり日も暮れた。通夜には200人はいただろうか

中にはスーツを来たオッサンのグループもあった。話している内容から察するにタケが決まっていた就職先の某大手コピー機メーカーの人たちだった

だが、多くの参列者のほとんどは学生だった。その中でもひときわ多いのは女子生徒だった。きっとこの中にタケの『彼女たち』がいたことだろう。彼女たちのすすり泣く声が途切れることなく響いていた

詳細を知るものから聞くと、どうも車の持ち主は複数いる彼女のひとりで、事故ったときに助手席に乗っていたらしい。今、病院に重傷で治療中とのことだったが、命は助かったとのことだった

 

同じクラスの私たちにお焼香の番が回ってきた

そのとき、参列者のひとりの女子生徒が母親に訊いた

 

女生徒「最後にお顔を拝見しながらお別れさせてください」

母親「どうぞ、直接お別れしてあげてください」

 

母親は棺の顔の部分を開いた

女子生徒は覗き込むと大きな声で泣き崩れた。列をなした人が次々に覗き込むと同じように泣き崩れたり、嗚咽が漏れた

そして私の番が来た

タケの顔は縫合されていたが、なんとか元のイケメンが保たれていた。それを見ると私もやはり慟哭してしまった

年老いた両親と弟が涙目に映った。私は思った

『タケ、絶対卒業しなきゃって言ってたの、両親と弟のためだろ、逝ってんじゃねぇよ』

 

泣きながら外に出ると高校の担任がいた。担任のS川先生は小さな背に禿げ頭、黒縁眼鏡の典型的なオヤジだ。静かにボソボソ話す大人しい印象だった

私「先生、タケが…」

泣き崩れる私の肩にポンと手を置いてS川先生は言った

S川先生「本当に信じられない…こんなことは残念すぎる」

すると特攻服を来た族が近づいてきてS川先生にこう言った

特攻服「センコーがこういう時だけ来てんじゃねぇよ、俺はセンコーだけは許せねぇ」

 

【イメージ画像】特攻服の男

驚いたことに先生は怯まなかった。怒鳴り返したのだ

S川先生「君は酷い先生に会ったようだが、私は違う!いい加減な気持ちで生徒と向き合ったことはない!君の許しなどまったく必要ない!」

怒鳴り返されて特攻服の男のほうが怯んだ。チッと言って向こうへ行ってしまった

 

私は本当の先生を見た思いがした

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

卒業して春がきた

クラスの中で特にタケと仲の良かった連中でタケの墓参りに来た

【イメージ映像】湘南の墓地

私はずっと気になっていた姓名判断の『19才は大厄』の話をした

私「満で言うとまだ18だろ、数えで言うと20になるから、この占いって外れてるはずだろ?」
卒業生A「だけどあまりにもハマり過ぎだろ?当たっちまったってことなんじゃねーの?」

私「占いのことはわからない。だけど、きっと将来は大成したはずだ」
卒業生B「それはそうだろ、なんせ人垂らしだからな」

卒業生C「そういえば、助手席の彼女には、まだタケの事、言ってないって」
卒業生B「あー聞いた、ショックが大きすぎて責任を感じるとヤバいからって」

そうか、そうだろうなと思った

どちらが誘ったのかは知らないが、自分の車で亡くなった事実は重たい

私は墓前に祈りながらタケに話しかけた…

『お前、汚えぞ。借りも返さねぇで逝きやがって。俺がそっちに逝ったらちゃんと返せよ。あの世の金はいらねー、代わりにとびきりの天女用意しとけ。どうせもう引っかけてんだろ?』

 

タケ、もう俺もいい年になった。もうじき貸しを取り立てに逝くからな、その時まで、酒用意してもう少し輪廻転生は待っとけ。約束な!

 

(…次回(第18話)ホストでバイト?大人のおもちゃを目で誘う)

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