Tubakka’s blog

初老オヤジの青春時代の実話体験談。毎話読み切り。暇で暇でしょうがない時にお勧め。

(第1話)違法なバイト?大人への階段

新潟県燕市の純喫茶ロンドンのテーブルゲーム機。 現役で稼働中とのこと。当ブログの内容とは関係ありません。

昭和の終わり頃、当時、高校3年生だった。
夏休みに稼ぎたいと思っていたのでバイトを探していた。

 

しばらくすると親戚のオッサンがいいバイト紹介するっていうんで話をきいた。
その頃のバイトの時給はせいぜい500~600円程度だった。
だから喫茶店で時給1,000円というのは破格だ。即OKした。
さすが親戚のオッサンが紹介するバイトは違うなーと嬉しかったのを覚えている。

 

…と、喜んだのはココまで。
次第に高時給の謎が解けていく…。

 

バイト初日、東京は錦糸町にある小さなビルをエレベーターで昇ると、その店はあった。
こじんまりとしていて質素な作り。
客席のテーブルはビデオゲームのできるタイプのもので、当時の喫茶店ではインベーダーゲームなどができるテーブルは珍しくない。

 

「ん?トランプゲーム?」ジャンル的に古くね?

と言うのも当時は確か格闘ゲームとかが流行ってて、トランプなんて子供も遊んでねーわって感じだ。

マスター「あ、紹介の子?」
私「ええ、そうです、XXさんの紹介で来ました」
マスター「うん、わかった、助かるよ、急に辞めるヤツがいて困ってたんだよ」
私「よろしくお願いします」

 

しばらく接客の仕方やコーヒーの淹れ方などの作法を教わると、この店で絶対に口外してはならないことを教わる。

 

マスター「でさ、xxさんの紹介だから信用してるから、大事なこと教えるね」
私「はい」…ん?店の鍵とか??
マスター「両替の金なんだけどさ、金庫にはないから」と言って店の奥にある小さな金庫を開けて見せた。

その中には100束以上の千円札の束があって、束の両端だけが本物で間に入ったお札は偽物だと。

マスター「本物はこっちね」
と言って冷蔵庫の野菜室の奥、たんまりある千円札の束を見せた。
私「…」

こっちがあっけに取られていると
マスター「あれ?xxさんから聞いてないの?」
私「え?…特に何も。喫茶店のバイトとしか…」
マスター「そっかー、でも基本的には喫茶店のバイトだよ、ちょっと両替があるだけ」

 

説明を聞いてようやく理解した。
要するにここは違法なゲーム賭博喫茶だったのだ。
トランプのポーカーゲームで客がゲームに勝つとクレジットの数字が増えていき、負けるとお金が減っていくという単純なものだ。

だが、ポーカーの役でロイヤルストレートフラッシュとかが出ると何10倍か、何100倍とかになるため熱くなる客がいるんだと。
このゲーム機は千円札を入れるタイプで、客から万札の両替をしょっちゅう頼まれるから、そこんとこよろしくってことだ。

 

マスター「あと、コーヒーとかサンドイッチの軽食とか、みんな無料だからな」
私「え?お金とらないんですか?」
マスター「ああ、取るのはタバコ代だけだから」

 

これ、まずいんじゃねぇの?
テキトーこいて辞めるっきゃねーわ
・・・って思ったその時、いかつい角刈りのオッサンが入ってきた。

 

角刈りのオッサン「おはようさん」
マスター「あ、おはようございます」
角刈りのオッサン「この子、xxの紹介の?」
マスター「そうです、今日からです」
角刈りのオッサン「そうか、よろしゅうたのむぞ」
私「あ、はい」

 

角刈りのオッサンは店のオーナーだった。

いかにもな風体は高校生をビビらせるには十分な迫力があった。
…店を辞めたいと言う勇気を奪うのに1秒もかからなかった。

ま、夏休みの間だけだから、バイト料もいいし、やるだけやるか。

 

--読者諸君は言うだろう--
・次の日から行かなきゃいいだろ
・違法営業だろ止めとけ
そのとおりだ。あなたは正しい。
だが、私にはどうしても卒業までにまとまった金が必要だった。
就職と同時に部屋を借りなければならない事情があったのだ。
その辺の経緯は次回述べたい。

 

バイトを続けて数日経つと、妙なことに気付き始めた。
なんか女性が多いのだ
ミニスカートに派手な化粧と髪色をした若い女性ばかりだ。
そして常連が多いのだ。

 

私「なんか若い女性の常連さん、多いスね」
マスターとのアイスブレイクは完了し、すでに打ち解けていた
マスター「ああ、フーゾクな」

 

なんと!男子高校生に刺激的なシチュエーションか、目の前にいるのはたくさんの風俗嬢なのだ。

 

私「ええ?なんでこんなにいるんスか」
マスター「近くのトルコでココのこと、仲間内で流行ってるらしい」


今はソープランドと呼ばれているが、当時はまだ、トルコ風呂と呼ばれていた。

 

--トルコ風呂とソープランド--
性風俗用語としてのトルコ風呂(トルコぶろ)は、かつて日本で個室付特殊浴場の名称として用いられていた。今日では「ソープランド」と改められた
「トルコ風呂」は字義どおりにはトルコ風の浴場という意味で、一般的には中東の都市でみられる伝統的な公衆浴場であるハンマームを指す。しかし、日本では1953年頃に現れた個室式特殊浴場を指す性風俗用語として定着し、1984年にトルコ人留学生の抗議運動をきっかけに「ソープランド」と改称されるまで用いられた。

秋吉久美子 映画「の・ようなもの」(1981)より

 

そのお姉さん達の金遣いの荒い事、荒い事。
私「あの、そういうとこで働いている人って家が倒産したとか、すごい貧しい家庭環境の人って思ってたんですけど違うんスか?」
マスター「んなわけあるか。あいつら好きでやってる」

 

うわっマジか!、わずかに残っていた純情魂がバキッと割れる音が聞こえた・・・

 

お姉さん達はバンバン千円札を飲み込ませていく。
そしてバンバンBetするのだ。

Betというのは、ゲームに勝った時の報酬を1/2の確率で賭けるのだ。
具体的に言うと次にめくるカードの数字が確か7より上か下かを当てるものだ。
高い役で勝ったときは、報酬が2倍になるので皆熱くなるのだ。

 

さらにBetは続けて繰り返すことが可能だ。
2倍→4倍→8倍->16倍→32倍・・・と増えていくが、1回でも負ければゼロになる。

わずかものの10分で数十万も勝って帰る客は珍しくなかった。
しかし、当たり前だが数十万も負けて帰る客もまた多い。

そうか。

何十万も負けてる客にコーヒー代くれっていえないなと思った。

 

--読者諸君は言うだろう--
・千円だけ遊んでコーヒーと軽食食われたら赤字じゃね?
・そんなんばっかきたらどうすんだ?
その疑問はもっともだ。あなたは正しい。
だが、すぐにそれとわかる、いかつい兄さんや風俗嬢だらけの店だ。
普通の喫茶店と間違って入った客は二度と来ないのだ。

 

そして客はロイヤルストレートフラッシュに恋焦がれている。
ロイヤルストレートフラッシュは最も高い役で、確か100円が5万円くらいになったと思う。Betで3回続けて勝つと40万だ。

私「これ、ロイヤルきてBetで勝たれると店キツイっスね」
マスター「んん?ないない。切ってあるから」
私「切る??」
マスター「絶対でないように細工済みだ」
私「え?でも壁にロイヤル出た日と写真付きでお客さんも」
マスター「とらさんだ」
私「とらさん??」
マスター「さくらだ」

 

マジかー、そうなんだー、汚ねぇなーなんか、でも元々違法かー。

 

マスター「お前のバイト代もそっから出てる」
私「うっ、・・・はい」
・・・経済は循環していることを体で理解した。
・・・つーか「とらさん」とかダサいだろ

 

ある日、店に行くと何やら「本日休業」の文字が。
私「あの今日休みって聞いてないっスけど?」
マスター「おー、手伝ってくれ、今日は入れ替えだ」

 

その日はゲーム機を入れ替える日だというのだ。
それもなんと普通のテーブルゲーム機だ。

 

私「あれ?新作のポーカーゲームとかじゃないんスか?」
マスター「明日手入れだから」
私「手入れ?」
マスター「サツの」
私「サツ?」
マスター「ケーサツ!」
私「ケーサツ?」
マスター「お前はオウムかっ!」

 

要は警察が抜き打ちで取り締まりに来るというのだ。

私「なんでわかるんスか?」
マスター「毎月金遣ってんの!」

 

マジか、そんな闇があるんスか。怖いっす。
なんか警察内部にスパイがいるとか、そんなレベルじゃないらしい。
脈々と受け継がれてきた、その何と言うか、…言えません。

 

マスター「明日、お前休みな!」
私「はいっ!」
…ホッとした。

 

バイトの最終日、晴れ晴れとした気持ちでバイト代を受け取った。
マスターに別れの挨拶をしているところにオーナーが入ってきた。

 

オーナー「おう、今日までか」
私「今までありがとうございました」
オーナー「高3か、卒業したら就職か?」
私「はい、就職が決まりました(キリッ)」
オーナー「そうか、ま、なんかあったらまた来いや」
私「はい、ありがとうございます」

 

就職など決まっていなかった。
とっさに出た嘘だった。
我ながら危険を察知する嗅覚は鋭く、二度と錦糸町にくることはないと心に決めた。

 

ほどなくして親戚のオッサンに電話した。
一応、バイトが終わったことを伝えるついでに気になってることを訊いた。

 

親戚のオッサン「お、無事おわったか」
私「終わったんスけど、無事ってなんスか?知ってたんスか?やばいの」
親戚のオッサン「ん?何だ?やばいって」

私は事の経緯を話した。

親戚のオッサン「うーん、そんなバイトだったのか、いや知らなかった。あの店はうちで紹介した物件だからな、そんで頼まれてな」

オッサンは不動産屋だ。そうか、偶然か。
私はふと、オッサンの風貌を思い描いた。
パンチパーマに薄茶色のメガネ、派手なスーツをいつも着ている印象だ。

 

もしかしてオッサン、そっち系じゃ・・・??
いやいや、それだけでは何ともいえない。
当時は普通のサラリーマンでも同じような出で立ちはいくらでもいた。

 

年が明けて就職祝いに例のオッサンが飯を驕ってくれるという。
学校が終わったら不動産屋まで来いという。

不動産屋のドアをガラッと開けるとオッサンは座っていた。
そのテーブルにはバイト先と同じ機種のポーカーゲームが燦々ときらめいていた。

私は二度とこのオッサンには近寄るまいと心に決めた。

 

 

(…次回『(第2話)6畳2間?2万6千円 』に続く)

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