Tubakka’s blog

初老オヤジの青春時代の実話体験談。毎話読み切り。暇で暇でしょうがない時にお勧め。

(第8話)約束シカト?中1初恋5万円

スケバンセーラー服コスチューム4点セット ハロウィンコスプレ 袖あり。当ブログの内容とは関係ありません

中学に入学したときの担任はS村という数学担当のおじいちゃん先生だった
先生の最初の講話はこんな感じだったと思う

S村先生「帝大にいた俺は海軍の士官を志していたが、身長が足りず涙を呑んだんだ。お前たちはそういう身体的なハンデはないんだから勉強に思いっきり励め!」

先生の身長は中学1年生と大差なかった


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中間テストが過ぎて家庭訪問にS村先生が我が家にきた
母は満を持してきいた

母「この子は公立に受かるでしょうか?」
S村先生「そうねぇ、このままいけば工業高校なら公立に受かる可能性がありますね」
母「あぁ、良かった!あんた頑張りなさいよ」

私は曖昧に答えた。S村先生は少し口元をゆがめて笑った。さも、そんな程度でいいのかと言いたげだったが、母には充分な朗報だった
…と言うのも姉は都内の私立高校だったため、とても学費が高く家計はピンチの連続らしかった

母「先生、よろしくお願いいたします」

私は多少の親孝行になるんなら工業高校を目指そうと思った

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この頃にはクラスメートの友達も増えていた。お互いの家に行き来したりして、我が家にもよくいろんなヤツが遊びに来た
その中にある女子がいた。その女子は水川あさみ風の清楚でおしとやかな美人で男子にもウケが良かった。彼女を仮に水川と呼ぶことにする

水川はS谷が居るときに限って参加するようだった。S谷は濃い眉毛とまつ毛が良く似合う、キリッとした二重まぶたが印象的なイケメンだった

水川「ちょっと誰~?7止めてんの~」
S谷「さぁ誰でしょう?」
私「お前かっ!」

…などと言い他愛もないトランプに興じることが多かった
私は水川に密かに思いを寄せたが、S谷をはじめとした多々いるイケメンにはとてもかなわない。ランクで言うとこんな感じか

イケメンランク表

私はいいとこDランクだろう(と思いたい)
私はほのかに灯った小さな思いを心の奥に深く沈めて一人で勝手に失恋モードに入ることにした

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中2のクラス替えでは水川とは別々のクラスだったが、3年になって再び同じクラスになった。清楚でおしとやかな水川は立派なスケバンになり果てていた。くるぶしまであるスカート、所どころ脱色したような髪、学生カバンはバスに轢かれたのかと思うくらい極薄だった
(※この頃は微妙にお嬢とも近しい関係にあったが、お嬢のことは別途述べたい)

スケバン水川「あっ懐かしいヤツみっけ!」

極薄カバンを見ていた私は目が合ってしまった

私「おっ、おぅ…」
水川「何見てたの?」
私「カバン、薄くね~?教科書入んのか?それ」
水川「教科書?久しく見てねーわ、ここには鉄板はいってんの!」

水川は口調もうって変わってスケバンだった

私「なんでそんなん入れてんの、重くね?」
水川「カコチミされたらコイツで返り討ちってこと」

彼女のスケバンぶりは本物だった

水川「それよりさ~、今日遊び行っていい?」
私「え?ウチ?」
水川「そっ、ねぇ~いいじゃ~ん、ね?」

最後の「ね?」が2年前の清楚な頃の水川と被ってついつい「うん」と言ってしまった

 

このあと私は後悔する

 

ウチは夜にならないと誰も帰ってこない。母は仕事、姉もバイトだからだ。それは2年前と何も変わらない。水川の狙いはココにあった

放課後、水川は2人のスケバン仲間を連れて来た。開口一番こう言った

水川「灰皿お願い」

えっ?と思った瞬間、3人ともタバコに火をつけていた。

水川「(可愛く)コーヒーとかある?」
私「うん、あるけど」

私はまず灰皿を出した。ウチは煙草を吸う人はいないが、愛煙家の宗教のお偉いオッサンがちょくちょく来るので用意はあった。しかし、頼み事のときだけ一瞬可愛く見えて騙される私のクセは治らないようだ

私はコーヒーを3人に出した

スケバンA「あっ、美味しい!」
スケバンB「本当だ~、美味しい!」
水川「え?なにこれ何かちがうの?」

 

ジャーン!ブルマン 100

 

これはただのコーヒーではない。100%のブルーマウンテン豆をミルで挽いたものだ。これが格別にうまい。そんじょそこらの喫茶店は絶対に太刀打ちできないうまさだ
なんせ、ブルマンの豆は他の豆と比べて倍以上の値段がした。だから、普通はブレンドで少し配合する感じで買っていく人が多いが、ウチの母は家計の苦しいさなか、コーヒー豆だけはブルマンだと言って譲らなかったのだ

 

--ブルーマウンテン --
ジャマイカにあるブルーマウンテン山脈の標高800から1,200 mの限られた地域で栽培されるコーヒー豆のブランドである。
ブルーマウンテンの特徴として、香りが非常に高く、繊細な味であることが挙げられる。香りが高いため、他の香りが弱い豆とブレンドされることが多い。
限られた地域でしか栽培されないため、収穫量が極めて少なく、高価な豆としても知られている。豆の品種は、他のジャマイカ産の豆と同じ物であるが、過酷な環境により栽培され、厳密な検査により選別された結果、繊細な味を実現している。ジャマイカから輸出する際、他のコーヒー豆なら麻袋等に入れるところ、ブルーマウンテンに限り木の樽で出荷される。
ブルーマウンテン

 

私「…ってわけでさ、旨いにきまってんじゃん」

私は鼻高々に説明したあと、しまったと思った。こいつらが味を占めることを恐れたのだ

案の定、ウチは喫茶店としてしばらく利用され続けた


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秋からは高校受検のために先生役として偏差値の極めて低いクラスメートに勉強を教えていた(『(第5話)俺が先生?地獄のほふく前進』参照)関係もあり、ほとんど誰とも遊べなかったし、アホの勉強相手で本当に忙しかった


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年が明けた元日の夕方、電話が鳴った

母「お前に電話だよ、水川さんだって」

え?何だろうと思った。しばらく遊んでもいないし共通の話題も覚えがなかった

私「もしもし、俺だけど」
水川「…あっ突然ごめんね、あのさぁ…」
私「うん」
水川「…ホント悪いんだけどさぁ…」
私「何?どうした?」
水川「…あのさ、5万円都合つかない?」
私「えー?なんで?」
水川「うん、…ごめん、理由は訊かないで欲しい…」
私「うっうん、わかった!」

私は少なからず動揺した。理由が言えないけど5万必要?私が中1の頃に淡い思いを抱いていた水川が何やらよからん状況らしい…

水川「それでさ、親にも言えないからさ、頼むとこなくてさ…」

私「わかるよ…」
水川「だからさ、悪いんだけどさ…」
私「あっうん、…わかったちょっとなんとかしてみるよ」
水川「ホント?助かる!ありがとう、明日電話くれる?」
私「うん」

電話を切って私は後悔した。なんという安請け合いをしてしまったかと。だが、あまりにも苦しそうな水川の声を聴くと、とてもむげには電話を切れなかった。きっと私に電話するのも、事情を説明するのも大変な勇気がいったに違いない。私はとにかく何とかしてやりたいと考えあぐねた

私はお笑い番組を見てゲタゲタと品なく笑う母と姉を見てシミュレーションしてみた

 

パターン1.理由を言わずに5万貸してくれと言ってみる説

母「5万円?いったい何に使うの?大金じゃないの!まだ中学生でしょ、何に使うの!」
姉「5万つったらあたしのバイトより多いじゃん、ふざけんな」

ってなるよなー。んーダメだなー。これは

 

パターン2.正直に全部話してみる説

母「なんで理由もわからず無関係なあんたが都合するの?こういうことは親御さんに任せておきなさい」
姉「5万つったらあたしのバイトより多いじゃん、ふざけんな」

ってなるよなー。んーこれもダメだなー。最後の手段か…

 

パターン3.バット振ったら飛んでって車にあたった説

母「ひゃぁー、すぐに謝りに行くわよ!このバカバカ!何してくれてんの!」
姉「それ5万じゃきかねーだろ、あたしも行く」

…ブルブルッ、1番ダメだわこれが…。ん~どうすっかな~
秋からの勉強会があったため、新聞配達やビル掃除のバイトは中断していた関係で、まったく金がなかった 水川はたぶんお年玉をあてにしたのかも知れないが、我が家にはそんなものはなかった

私「電話しないとなー」

悩みながらも母にも姉にも何も切り出せず正月は明けた
私はついに水川に電話できなかった。いや、しなかったが正しい


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3学期が始まった。教室でみる水川は以前と変わらず楽しそうに笑っていた
特に問題はなさそうに見える。あの相談は何だったのか、不思議に思った

私「ひよっとして担がれたのかな?あっそれとも新手のカツアゲ?」
私「いや、そんなはずないよなー、それなら裏番連れてきて金出せってのが早いじゃんなー」

一人でブツブツ言いながら答えが出せずにいたが、直接訊くわけにも行かなかった。電話しなかったからだ。 私はなるべく水川と眼をあわせないようにした


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中学の卒業式もとっくに済んだある秋の日、工業高校からの帰り道、蒲田駅の改札を過ぎると見覚えのある子がこっちを見ていた。走り寄ってくる。水川だった

水川「珍しい人見つけちゃったなー、サ店行こ、サ店」
私「お、おぅ…見違えちゃったじゃん、やめたの?ヤンキー」
水川「別にそんな好きでやってなかったし、あたしの高校、私立だからチョー身なりうるさいし…」

私は困った。この間の件、どうやって謝ろうか、切り出そうかと思った
とりあえず近くの喫茶店に入った

コーヒーを2つ頼むと、水川は早速タバコに火をつけてふっーと煙をくゆらせた

水川「ね、彼女出来た?彼女!」
私「え?いやそんなの無理だよ、いませんってば」
水川「紹介しよっか?いい子いるんだ一人、二子玉の子」

 

二子玉川は、東京都世田谷区の地区である。主に東急電鉄二子玉川駅周辺を指す。略称は二子玉、二子。 世田谷区の玉川と、多摩川を挟んで隣接している神奈川県川崎市高津区の二子を組み合わせた地名であり、二子玉川という行政上の地名は存在しない。

話が変な方向に飛んでいった。私はあの話題から話をそらし続けたい思いもあって、その話に乗ることにした

私「マジか!でもなー、ルックス的に俺はムリじゃね?」
水川「男のクセにうぜーこと言うなよ、決まりね?連絡するから」

こうしてあの話題はお互いに避け続けてその日は別れた
※二子玉の子の話は長くなるので次のブログで述べたい


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あれから10年、小さなクラス会があると言うので参加した

蒲田駅の東口の交番前に集まった7~8人の懐かしいメンバーの中に水川はいた
水川はますます綺麗になっていた。あの頃のヤンキー姿が嘘のようにパンツスーツが良く似合っていた。結婚して既に子供もいるらしい

宴会が始まって暫くすると私はタバコを買いに外に出た。後からS藤がついてきて一緒にタバコを買いに行くという
(※私は立派な愛煙家になっていた。生意気にもKOOLを好んでのんだ)

S藤は中学を卒業後は進学はせずに鮮魚店に勤めたはずだったが、道すがら訊いて見ると現在は個人で運送業をやっていると話した
するとS藤がおもむろに言い出した

S藤「俺よ、お前のこと嫌いだったんだよな」

びっくりした。え?今このタイミングで言う?そうだったとしてもさ、25才も過ぎて今さらかよと思った

私「え?そうだったんだ。ちなみにどこが嫌だった?」
S藤「なんつーかよ、テニス部なんか入ってチャラチャラしてよ、いけ好かなかったよ」
私「…ふーん、けど、テニス部はY尋に入れって言われて入ったんだけどな?」
(※Y尋は中3の担任。ここの経緯は(『(第5話)俺が先生?地獄のほふく前進』参照))

S藤「そんなん知らねーよ、いけ好かねーもんは、いけ好かねー」
私「…」

居酒屋までの帰り道は二人とも無言になった
S藤は居酒屋の近くまで来ると走って中に入ってしまった

私「えー?なにこれ。ただ単に嫌いです宣言?10年以上経つのに?勝手に恨んでます宣言?何も恨まれることしてないのに?」と独り言を言いいながら、ふと思った

過去、友人に裏切られたことが幾つかあった。これはきっとS藤の言うように私に『いけ好かねー』何かがあるんだと思い直した
※友人に裏切られた話はそのうち述べたい


二次会も済んでお開きになった駅までの帰り道、水川と歩いた

水川「実はさ、あたしも一瞬だけテニス部にいたの知ってた?」
私「えぇー?知らなかったー、いたっけー?」
水川「体験入部だったから、すぐ辞めちゃったけどさ」

その後、最近仕事はどう?的な会話をしていたら急に改まって訊いてきた

水川「あの時さ、何で電話くれなかったの?3年の正月さ。待ってたんだよ、ずっと…」

私は心臓が飛び出るほどの動悸に襲われた
そうか、やっぱり待ってたんだ。私は正直にすべて話した
・我が家にはお年玉の余裕がないこと
・しばらくバイトしてなかったこと
・どうしても母と姉に相談できなかったこと

水川「でも電話はできるじゃん」
私「だよな、ごめん、本当にごめん心から謝ります」

私はその場で腰を曲げて謝罪した

水川「止めてよ、みんな見るじゃん」
私「本当にごめん」
水川「いいよもう。でも、あの後大変だったよ」

そうか、やっぱり何か大変だったんだな…。でも何があったかは聞くのが怖かった

私「…」
水川「そんな大げさにいいってもう、気にしないで。ちょっと訊いてみたかっただけ。今は4人の子持ち主婦だからさ」
私「そっか、もう大家族お母さんなんだな」


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私の当時のアパートは埼玉の南浦和駅近くにあった。駅に着く頃には深夜0時を回っていた
60分近く電車に揺られて降りた頃には酔いも覚めつつあった
私はまだやっている居酒屋にひとりで入ると冷や酒を頼んだ

「待ってたんだよ、ずっと…」の言葉が重かった
あの頃はわからなかったことが今ならなんとなくわかる気がする

元旦に電話してきて金を貸して欲しいと懇願する中学3年の女の子…。かなり切迫した様子だった…。親にも相談できないことと言ったら…


嫌やめよう。今更何があったか詮索してもしょうがない、私は結局、約束した大切な電話をすっぽかした『いけ好かねーヤロー』でしかない

それにしても高1の秋、蒲田駅で私を見かけた時、水川は電話を返してくれなかった私を許して声をかけてくれたのか…
私は熱燗をもう一本注文すると、この苦い経験を封じることにした…


(…次回『(第9話)初体験?彼女とお泊まり大晦日 』に続く)

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